経産省、グレーゾーン解消制度に係る事業者からの照会に対し回答
「電子契約サービスに係る建設業法の取扱いについて」
岩田合同法律事務所
弁護士 青 木 晋 治
1. はじめに
経済産業省は、本年2月19日、産業競争力強化法が定める「グレーゾーン解消制度」に係る事業者からの建設業法に関する照会(以下「本照会」という。)に対して、同法を所管する国土交通省の回答を公表した。照会内容は、建設業者が建設工事の請負契約の締結をクラウド上で電子的に行うことができるサービスを運用する予定の事業者が、当該サービスが建設業法施行規則第13条の2第2項に定める技術的基準に適合するかというものであった。国土交通省は、以下の理由で、建設業法施行規則第13条の2第2項に規定する技術的基準を満たすものと解されると回答した。
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以下、本照会に関連する事項や留意点について概説する。
2. 電子契約サービスと建設業法上の規制
(1) 建設工事請負契約締結に際する書面の相互交付義務
建設工事請負契約締結に際しては、原則として契約に関する事項が記載された書面に署名又は記名押印して相互に交付しなければならないとされている(建設業法第19条1項)。
(2) 情報通信の技術を利用する場合の例外
ただし、契約の相手方の承諾を得た上で、コンピュータ・ネットワーク利用(電子メール、Web等)や、電子記録媒体(フロッピーディスク等)利用などの情報通信の技術を利用する方法であって国土交通省令で定める措置を講じている場合には電子契約による契約締結も可能である。建設業法施行規則第13条の2第2項は、情報通信の技術を利用する方法により建設工事請負契約を締結する場合の技術的基準について以下のとおり定めている。
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上記技術的基準に関しては、「建設業法施行規則第13条の2第2項に規定する『技術的基準』に係るガイドライン」(以下「ガイドライン」という。)を国土交通省が定め、平成13年3月30日に公表している。その内容は概要以下のとおりである。
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(3) 本照会の意義
本照会は、建設工事請負契約締結に際して、建設業者が建設工事の請負契約の締結をクラウド上で電子的に行うことができるサービスを運用する予定の事業者が、当該事業者の提供するサービスが前記の技術的基準に適合するかの確認を求めたものである。照会者は2つのサービスについて確認を求め、いずれも技術的基準に適合するとの回答を得たが、請負契約締結に係る手順は以下のとおりである(2つのサービスは、⑥の手順があるか否かに違いがある)。
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契約書データは事業者の管理するクラウド上に存在することから、上記技術基準にいう見読性の確保の問題が生じ得るが、完了通知メールに含まれるアクセス情報を経由すればダウンロードすることで保存、印刷が可能であることを踏まえ、見読性の確保には問題がないとの判断がなされたものと思われる。本照会に対する回答は、事業者が具体的に予定している事業手順に対しての事例判断ではあるが、事業者が運営するクラウド上にデータが保存されており、契約当事者がダウンロードすれば、データを電磁的記録として保存及び印刷ができるという措置がとられている場合について、技術的基準を満たし得ることを示す意味で意義はあるものと考えられる。
なお、本照会と同種の照会に対する回答として、平成30年1月29日付で経済産業省が公表した事例があり、当該事例において、国土交通省は、以下の理由で、建設工事請負契約締結をクラウド上で電子的に行うサービスを提供する事業者からの照会に対して、建設業法施行規則第13条の2第2項に規定する技術的基準を満たすものと解されると回答している。本照会と上記事例は、本照会が、契約書のデータについて閲覧するためには、契約当事者がダウンロードをすることが必要となる一方で、上記事例においては契約当事者がダウンロードしなくともサービスを提供する事業者から契約書のデータが送付されることが予定されている点で、異なるが、いずれも技術的基準を満たすものとされていることとなる。
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3. 電子契約を検討する際の留意点
(1) 技術的基準に適合するサービスかどうか
電子契約の導入については印紙税等のコスト削減のメリットがあるが、電磁的措置の技術的基準については、上記ガイドラインに定める基準(①見読性の確保、②原本性の確保)を満たすサービスとなっているかどうかについて最低限確認する必要があると思われる。
(2) 電磁的記録の成立の真正が争われた場合のリスクを考慮すること
また、電子署名及び認証業務に関する法律(以下「電子署名法」という。)第3条は、電磁的記録について、電磁的記録に記録された情報について「本人による電子署名」が行われているときは、真正に成立したと推定されるとの民事訴訟法第228条第4項と同様の規定を置いている。電子契約の導入にあたっては、電磁的記録の成立の真正が争われた場合、「本人による電子署名」であることの立証ができなかった場合には、結果として、契約締結の事実が否定されるリスクがあることについても留意する必要がある。
すなわち、私文書については、印鑑証明書などによりその作成名義人の印影が当該名義人の印章によって顕出されたものであると立証されれば、反証のない限り本人の意思に基づいて顕出されたものと事実上推定され、その推定がなされる結果、当該私文書は民事訴訟法第228条第4項により真正に成立したものと推定される(最判昭和39年5月12日民集18巻4号597頁)。一方で、電子署名法第3条にいう「本人による電子署名」であることについて、私文書のような事実上の推定が認められる場合があり得るのか、あり得るとしてどのような場合かについては判例が存在せず、必ずしも判断基準が確立していない。
電子契約の導入については、かかるリスクについても留意すべきである。
以 上