◇SH2499◇法務担当者のための『働き方改革』の解説(31) 原雅宣(2019/04/23)

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法務担当者のための『働き方改革』の解説(31)

労働安全衛生

TMI総合法律事務所

弁護士 原   雅 宣

 

XVII 労働安全衛生

1 はじめに

 長時間労働を是正し、健康を守り、多様な「ワーク・ライフ・バランス」を実現する点が働き方改革のポイントのひとつである。働き過ぎを防ぎ、健康を守る措置として、労働時間に関する規制について種々の改正がなされたが、労働安全衛生法に関しては、労働者の健康確保のための産業医・産業保健機能の強化が盛り込まれた。これは、「産業医の独立性や中立性を高めるなど産業医の在り方を見直し、産業医等が医学専門的な立場から働く方一人ひとりの健康確保のためにより一層効果的な活動を行いやすい環境を整備する」(平成29年3月28日働き方改革実現会議決定「働き方改革実行計画」7(3))を受けての具体的な施策といえる。

 働き方改革に関する情報は既に溢れていること、既に今年4月1日に施行済であることを踏まえ、本稿では改正に関する詳述を避け、事業者のTODOを中心に整理することを主眼とする。

 

2 産業医・産業保健機能の強化

(1) 産業医の独立性・中立性の強化、事業者から産業医への情報提供の充実・強化

  1. □ 産業医の辞任・解任時の衛生委員会等への報告
  2. □ 事業者が産業医に付与すべき権限の強化

    1.   事業者又は統括安全衛生管理者に対して意見を述べる権限
    2.   労働者の健康管理等を実施するために必要な情報を労働者から収集する権限
      (例.対面による労働者からの情報収集、職場でのアンケート調査の実施等)
    3.   労働者の健康を確保するため緊急の必要がある場合、労働者に対して必要な措置をとるべきことを事業者に指示することができる権限
  3. □ 産業医等に対する労働者の健康管理等に必要な情報の提供
  4.   ①健康診断、②長時間労働者に対する面接指導、③ストレスチェックに基づく面接指導実施後の既に講じた措置又は講じようとする措置の内容に関する情報(措置を講じない場合にはその旨・理由)、④時間外・休日労働時間が月80時間を超えた労働者の氏名、超過時間(超過者がいない場合には、該当者がいない旨の情報提供)、⑤労働者の業務に関する情報で産業医が労働者の健康管理等を適切に行うために必要と認めるもの(例.作業環境、労働時間、作業態様、作業負荷の状況、深夜業の回数・時間数等)として産業医から求められたもの

(2) 産業医と衛生委員会との関係の強化

  1. □ 産業医の勧告を受けた場合、遅滞なく、衛生委員会等に当該勧告を踏まえて講じた措置又は講じようとする措置の内容(講じない場合はその旨及び理由)の記録化、3年間の記録保存、衛生委員会への報告
  2. □ 安全委員会、衛生委員会等の意見等の記録及び3年間の保存

(3) 健康相談の体制整備、健康情報の適正な取扱い

  1. □ 産業医による健康相談の申し出の方法(健康相談の日時・場所等)、産業医の業務の具体的内容、事業場における労働者の心身の状態に関する情報の取扱方法の労働者への周知
  2. □ 健康相談情報についての情報の適正な取扱いの規程の整備

 

3 労働時間の客観的な把握義務、長時間労働者に対する面接指導等

  1. □ 労働者(管理監督者を含む)の労働時間の状況(=いかなる時間帯にどのぐらいの時間、労務を提供しうる状態にあったか)を客観的な方法で把握すること(例.タイムカードやPCのログイン・ログアウト時間等)、及び、その記録を3年間保存
  2. □ 月80時間を超えた労働者本人に対して、速やかに当該超えた時間に関する情報を通知
  3. □ 医師による一定の労働者に対する面接指導

    1.   時間外・休日労働が月80時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められる者(労働者の申し出に拠る)
    2.   時間外・休日労働が月100時間を超える研究開発業務従事者(労働者の申し出なしに必要)

 以上に加え、産業医の役割や業務量の拡大に伴い、事業者と産業医との契約内容も(場合によっては、報酬条件等も含めて)見直しが必要になるものと予想される。特に、メンタル不調などによる労働者との面談においては、一定の時間を割いて相談を受けて事実関係を把握するプロセスを要する為、従来よりも産業医の業務量や責任が大きくなっている点は事業者側も理解すべきであろう。「多くの事業場は、嘱託産業医との契約で活動を進めているわけでして、そこに焦点を当てなければ実りある対策にはなり得ないのではないか」という指摘もあり(2017年5月15日 第103回労働政策審議会安全衛生分科会https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000183879.html)、専属産業医がおらず、嘱託産業医のみの場合や、地方の事業場等で産業医の確保が容易ではない事業場の場合には、一層、新たな産業医の選任や既存の産業医との契約条件の見直し等も検討せざるを得ないのではないか。

 また、一言で産業医といっても、医師によって診療科や専門性が異なる。精神疾患に関する専門性が必要な場合には、心療内科・精神科医の活用も検討すべきであろう。

 

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