インドネシア:新保険法の制定
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 前 川 陽 一
インドネシアはユドヨノ前政権下の比較的安定した政情を背景として順調な経済成長を遂げ、2010年には一人当たり名目GDPがはじめて3,000米ドルを突破した。中所得層・高所得層の増加に伴い、生命保険市場は近年著しい拡大を遂げており、2008年から2013年の平均成長率は19%に達している。他方で、保険普及率(GDPに占める保険料の割合)は2%程度の低い水準に留まっていることから、インドネシアの保険市場はなお成長余地の広い有望な市場として期待されている。
このような状況のもと、保険市場の成長に伴う諸制度の整備及び保険契約者等に対する保護の充実を目的として、制定以来改正が行われてこなかった旧保険法(1992年法第2号)を全面的に改正する新保険法案が、2014年9月23日、国会で可決された。新法においては、外国投資家の観点からも重要な改正がなされた。
まず、新法は、保険会社への出資要件として、内資100%又は内資・外資の合弁であるべきことを明確にした。従来の運用の下で間接的に外国資本が株式の100%を保有している保険会社は、かかる要件を満たさないこととなるため、新法施行後5年以内に国内投資家に対する株式譲渡又は資本市場への上場の方法により所定の出資比率まで引き下げなければならない。具体的な手続は、金融庁(OJK)が後日制定する施行規則に定められる。
他方で、外国資本の出資比率に関する新たな定めは置かれなかったため、現行の上限80%が引き続き適用される。もっとも、新法の関連規則は今後順次制定され、その中で外国資本の出資比率上限の引き下げが行われる可能性がある。今後の動向になお注意を要する。
カルテルの防止の観点から、同一の保険業を営む保険会社2社以上の支配株主となることはできない旨の規定が新設された。したがって、保険会社の株主は、生命保険会社、損害保険会社、再保険会社、シャーリア生命保険会社、シャーリア損害保険会社及びシャーリア再保険会社各1社の支配株主となることができ、かつこれが上限となる。新法において支配株主の定義は置かれていないが、現行のOJK規則は支配株主を(a)発行済株式の25%以上を保有する者、又は(b)当該会社を支配していると認められる者と定義しており、これが妥当するものと考えられている。
また、新法は「コントローラー」(Pengendali)という概念を新たに導入した。コントローラーとは、直接又は間接に取締役及びコミサリスに対する指名権及び影響力を有する個人又は法人と定義され、最低1名を置かなければならないとしている。居住地(所在地)や国籍等の要件は特に置かれていない。ただし、コントローラーはFit & Proper Testに合格しなければならず、コントローラーを欠く場合、OJKがこれを指名することができる。コントローラーは、支配株主とは区別された概念として規定されており、新法の注釈は、取締役やコミサリスとは別に、破綻時において保険契約者、被保険者その他の参加者に対して責任を負うと説明しているが、かかる責任の内容は明確にされていない。運用上の問題を孕む可能性のある概念であるように思われる。