公取委、森永製菓株式会社に対して下請法違反に基づく勧告
岩田合同法律事務所
弁護士 山 田 康 平
1. はじめに
公正取引委員会は、2019年4月23日、森永製菓株式会社(以下「森永製菓」という。)に対し、同社に下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」という。)4条1項3号(下請代金の減額の禁止)の規定に違反する行為が認められたとして、勧告を行った。
下請法7条に基づく勧告は毎年度一定数行われているところ[1]、下請代金の減額の禁止を理由とする勧告が特に多く見受けられるところであるから、本勧告の概要を紹介するとともに、そのポイントを解説することとしたい。
2. 下請代金の減額の禁止とは[2]
(1) 総論
下請法4条1項3号は、親事業者が、下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、発注時に定めた下請代金を減ずることを禁止している。
「歩引き」、「リベート」等の減額の名目、方法、金額の多少を問わず、発注後の減額は本号による規制の対象となる。また、仮に親事業者と下請事業者との間で、下請代金の減額等について、あらかじめ合意があったとしても、下請事業者の責めに帰すべき理由なく下請代金を減額した場合は本号の違反となる。
このような規定が設けられているのは、下請取引においては、下請事業者の立場が弱く、一旦決定された下請代金であっても事後に減ずるよう要請されやすい一方、下請事業者はこのような要求を拒否することが困難であり、下請代金の額が減じられると、直接、下請事業者の利益が損なわれることから、これを防止する必要があるためである。
(2) 単価改定の遡及適用について
下請法4条1項3号の趣旨を、親事業者と下請事業者との間で、単価の引下げについて合意が成立し、単価改定をした場合に当てはめた効果については、次のとおり解されている。すなわち、新単価は当該合意日以降の発注分から適用される。当該合意日前に旧単価で発注されているものにまで新単価を遡及適用して、下請代金の額から旧単価と新単価との差額を差し引いてはならない。
例えば、4月1日に、「3月1日発注分から引き下げた新単価を遡って適用する」と合意したとしても、この合意のとおり、3月1日発注分から新単価を適用した場合、下請法違反となる。単価改定交渉が長引き、交渉期間がずれ込んだ等の事情があり、下請事業者との間で遡及適用の合意をしていたとしても、この結論は変わらない。
※ 公正取引委員会・中小企業庁「下請取引適正化推進講習会テキスト」(平成30年11月)53頁より抜粋。
3. 森永製菓の行為
森永製菓は、食料品の製造を委託していた下請事業者との間で、単価の引下げ改定を行ったところ、単価の引下げの合意日前に発注した食料品について引き下げた単価を遡って適用し、2016年11月から2018年5月までの間、下請代金の額から、下請代金の額(旧単価)と発注後に引き下げた単価を遡って適用した額(新単価)との差額を差し引くことにより、下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減じていた。
すなわち、公正取引委員会は、森永製菓が上記2.(2)で述べたような単価改定の遡及適用を行ったとして、同社に対して勧告を行ったのである。
4. まとめ
下請事業者との間で単価の引下げを行うこと自体は、多くの事業者においてみられることであると思われる上、下請代金の減額に限らず、下請事業者の合意を得て行った取扱いであっても、下請法違反となる場合があることについて、再認識する契機となればと思い、本事例を紹介した次第である。
以 上
[1] 2018年度(平成30年度)は7件、2017年度(平成29年度)は9件、2016年度(平成28年度)は11件行われている(公正取引委員会HP「下請法勧告一覧」(https://www.jftc.go.jp/shitauke/shitaukekankoku/index.html))。
[2] 公正取引委員会・中小企業庁「下請取引適正化推進講習会テキスト」(平成30年11月)52頁以下参照。