◇SH3076◇経産省、新型コロナウイルス感染症により影響を受けている 個人事業主・フリーランスとの取引について、発注事業者に要請 佐藤修二(2020/03/26)

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経産省、新型コロナウイルス感染症により影響を受けている
個人事業主・フリーランスとの取引について、発注事業者に要請

岩田合同法律事務所

弁護士 佐 藤 修 二

 

 経済産業省(以下「経産省」という。)、厚生労働省(以下「厚労省」という。)及び公正取引委員会(以下「公取委」という。)は、連名で、本年3月10日、「新型コロナウイルス感染症により影響を受ける個人事業主・フリーランスとの取引に関する配慮について」と題する文書(以下「本件文書」という。)を公表した。本稿では、本件文書の法的性質について検討したい。なお、以下、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律を「独禁法」、下請代金支払遅延等防止法を「下請法」と略称する。

 本件文書が個人事業主・フリーランスへの発注事業者に求める内容は、以下の3点である(法令の略称も含め本件文書の内容をそのまま転記した)。

  1. ① 新型コロナウイルス感染症の拡大防止やそれに伴う需要減少等を理由に、個人事業主・フリーランスとの契約を変更する場合には、取引の相手方である個人事業主・フリーランスと十分に協議した上で、報酬額や支払期日等の新たな取引条件を書面等により明確化するなど、下請振興法、独占禁止法及び下請代金法等の趣旨を踏まえた適正な対応を行うこと
     
  2. (適正な対応の例)
  3. •  一方的に契約を行うのではなく、変更の内容について、契約の相手方である個人事業主・フリーランスの同意を得た。
  4. •  契約の変更に際し、当該変更によって新たに個人事業主・フリーランスに発生する費用を報酬額に上乗せした。
  5. •  契約の変更(一部解除)に際し、既に個人事業主・フリーランスに発生している費用を負担した。
  1. ② 新型コロナウイルス感染症により影響を受けた個人事業主・フリーランスが、事業活動を維持し、又は今後再開させる場合に、できる限り従来の取引関係を継続し、あるいは優先的に発注を行うこと
     
  2. ③ 個人事業主・フリーランスから、発熱等の風邪の症状や、休校に伴う業務環境の変化を理由とした納期延長等の求めがあった場合には、取引の相手方である個人事業主・フリーランスと十分に協議した上で、できる限り柔軟な対応を行うこと

 

 各省庁のHPによれば、本件文書の所管部署は、経産省では経済産業政策局産業人材政策室、厚労省では雇用環境・均等局在宅労働課、公取委では経済取引局取引部企業取引課である。経産省及び厚労省の所管部署は、労働市場に関する政策所管部署であって法執行部門ではないと思われるため、本件文書は、基本的には、両省所管法令の執行を予定したものではないものと推察される。もっとも、経産省の外局である中小企業庁は下請法を所管しており、中小企業庁による同法の執行はあり得ないではない。しかし、下請法は、禁止事項を特定的に定めているところ(同法4条等)、本件文書の要請内容は、同法の定める禁止事項と直結するものではなく、本件文書の求めに従わないことが、直ちに下請法違反に繋がるものではなさそうである。

 他方、公取委における本件文書の所管部署である企業取引課は、優越的地位の濫用規制(独禁法19条、公取委告示「不公正な取引方法」14号)及び下請法に関する調査・立案等を担当する部署のようである。直接的に法執行を担当する部署ではないとは言え、法執行部門である審査局との連携は想定され得る。

 優越的地位の濫用規制は、下請法が具体的に禁止事項を特定しているのとは異なり、一般条項的な性質を有し、広範に適用され得る。折しも公取委は、2018年、「人材と競争政策に関する検討会報告書」において、個人事業主・フリーランスとの取引に優越的地位の濫用規制が及び得る旨の見解を示したところでもある。

 企業は、本件文書の求めるところに反した場合、その具体的な事情や状況によっては、公取委が、優越的地位の濫用規制に基づく摘発等を行うことがあり得ると想定すべきであろう。

 

<各省庁における本件文書の所管部署とその所管法令>

  経産省 厚労省 公取委
本件文書の 所管部署 経済産業政策局 産業人材政策室 雇用環境・均等局 在宅労働課 経済取引局 取引部企業取引課
上記部署の 所管法令 特になし (経産省外局の中小企業庁が下請法を所管) 特になし 独禁法・下請法に関する実態調査・企画立案

 

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