法務省、産業競争力強化法に基づく司法書士関係の照会・回答内容を公表
――ウェブサイトによる株式会社の本店移転登記関係書類生成サービスの合法性について――
法務省は4月19日、司法書士関係のウェブサービスに係る産業競争力強化法7条3項の規定に基づく照会・回答の内容および、「本件回答により実施が許容される事業の範囲について」を公表した。
今回の対象となったのは、①事業者の制作したウェブサイトであらかじめ用意された質問に利用者が回答・入力することで、本店移転登記に必要な書類を生成し、さらに②利用者が希望する場合には同書類の印刷および登録免許税として必要な額の収入印紙の同封を依頼することができる、というサービスを内容とする事業である。この事業が、司法書士法(以下「法」という)に違反しないことの確認を、所管する法務省に求めていたものである。
法務省では、平成30年8月23日付で、上記照会について回答している。今回公表されたところによると、①については、「一般的に、事業者が、Web上に一定の入力フォームを用意し、利用者が自己の判断に基づき、その入力フォームに用意された項目に一定の事項を入力し、当該利用者自身が登記申請書を作成する行為(中略)は、法第3条第1項第2号に規定する事務を業として取り扱ったとの評価まではされないものと考えられる」とした。
他方で、「個別具体的な事案に応じて、利用者からの依頼に基づき、その入力内容についての相談を受け、及び入力内容を具体的に教示する行為は、一般的に、利用者の依頼の趣旨に沿って適正な書類を作成すること等のために必要な相談(中略)に該当し、法第3条第1項第5号に規定する事務を業として取り扱ったと評価をされるおそれがある」との判断を示した。
また、②について法務省は、「一般的に、登記申請書について、利用者からの指示に基づき、利用者が指定する電磁的記録(登記申請書の電子データ)に記録された内容を印刷して当該利用者に送付する行為そのものは、法第3条第1項第2号に規定する事務を業として取り扱ったとの評価まではされない」ものと考えられ、また、「登録免許税を納付するために必要な収入印紙の購入等については、法において、司法書士又は司法書士法人の業務として定めた規定はなく、直ちに法違反との評価がされるものではない」とした。
法務省は、結論として、①および②について、「株式会社の本店移転の登記に必要となる登記申請書、印鑑届書等を利用者が登記所に提出するためだけに作成する場合に限定されており、(中略)個別の事案において利用者からの依頼に基づき個別具体的なアドバイスをするようなものでない限りにおいて、確認の求めのあった法令の条項との関係においては、(中略)全部実施可能である」としたものである。
なお法務省では、今回の照会・回答内容の公表にあたり、「産業競争力強化法第7条第3項の規定に基づく回答により実施が許容される事業の範囲について」をサイトに掲載し、今回のポイントを説明しているので、以下にこれを紹介する。
産業競争力強化法第7条第3項の規定に基づく回答により実施が許容される事業の範囲について
(平成31年4月19日・法務省民事局)
産業競争力強化法第7条第3項の規定に基づき、平成30年8月1日付けで経済産業大臣からあった確認の求めについての回答は、同月23日付けでした法務大臣の回答(以下「本件回答」といいます。)のとおりですが、そのポイントは以下のとおりです。
1 確認の求めの要旨
今回の確認の求めの内容は、以下の①及び②をサービス内容とする事業が、司法書士でない者が司法書士業務を行うことを禁止する司法書士法(昭和25年法律第197号)第73条第1項に違反しないことの確認を求めるというものです。
- ① ウェブサイトにおいて、株式会社の本店移転の登記手続に必要な書類を洗い出すための質問を用意し、利用者の判断でこれに回答させて一義的な結果を表示し、利用者が入力した情報を自動的に登記関係書類として生成すること
- ② その上で、①において生成した書類を代行印刷し、登録免許税として必要な額の収入印紙を同封し、利用者に送付すること
2 本件回答の要旨
(1) ①のサービスについて
本件回答においては、まず一般論として、事業者が、ウェブ上に、登記の申請書を作成するのに必要な一定の入力フォームを用意し、利用者が自己の判断に基づき、その入力フォームに用意された項目に一定の事項を入力して登記申請書を作成するという登記申請書の作成支援行為や、その際に一般的な法解釈を踏まえたQ&Aを用意すること自体は司法書士法違反には該当しないものとしています。
他方で、個別具体的な事案に応じて入力内容についての相談を受け、入力内容を具体的に教示する行為については、司法書士法第3条第1項第5号の事務(同項第1号から第4号までの事務について相談に応ずること)に該当するおそれがあるとした上で、商業登記の申請書に添付すべき書面は株式会社の機関設計等に応じて異なるのが一般的であり、個別具体的な事案に応じて必要となる添付書面やその内容について相談を受けることは司法書士法に違反するおそれがある旨を明らかにしています。
その上で、本件回答は、結論として、本件の「事業は、株式会社の本店移転の登記」という特定の登記「に必要となる登記申請書、印鑑届書等を利用者が登記所に提出するためだけに作成する場合に限定されていること」を前提として確認し、さらに、「個別の事案において利用者からの依頼に基づき個別具体的なアドバイスをするようなものでない限りにおいて」との条件を付して、本件の事業は、司法書士法との関係で実施可能であるとしています。
(2) ②のサービスについて
本件回答においては、一般的に、登記申請書について、利用者からの指示に基づき、利用者が指定する電磁的記録(登記申請書の電子データ)に記録された内容を印刷して当該利用者に送付する行為そのものは、司法書士法第3条第1項第2号に規定する事務を業として取り扱ったとの評価まではされないものと考えられるとし、また、登録免許税を納付するために必要な収入印紙の購入等については、司法書士法において、司法書士又は司法書士法人の業務として定めた規定はなく、直ちに司法書士法違反との評価がされるものではないと考えられるとしています。
3 今回の回答の範囲を超える事業への対応について
本件回答においては、上記2のとおり、本件回答により実施が許容される事業の範囲は飽くまでも上記の条件を満たす場合に限られるものとしています。
したがって、これを満たさない事業の実施については、今回の回答に含まれるものではありません。
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法務省、司法書士関係:「産業競争力強化法第7条第3項の規定に基づく回答について」のページを更新しました(4月19日)
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00354.html -
法務省、司法書士関係:本件回答により実施が許容される事業の範囲について(4月19日)
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00378.html