◇SH2947◇弁護士の就職と転職Q&A Q101「弁護士ランキングはどのような企業によって選ばれているのか?」 西田 章(2019/12/23)

法学教育

弁護士の就職と転職Q&A

Q101「弁護士ランキングはどのような企業によって選ばれているのか?」

西田法律事務所・西田法務研究所代表

弁護士 西 田   章

 

 今年も、年末の恒例行事として、日本経済新聞社から、12月16日付けで「企業が選ぶ弁護士ランキング」が発表されました。同ランキングを見た上場会社の役員からは、「我が社がお世話になっている先生がランクインされたので、お祝いに行こうと思う」というコメントに続き、「我が社は投票していないが、どういう企業によって選ばれているのか」という素朴な疑問が聞かれました。日本経済新聞の誌面において同時に発表されている回答企業一覧まではご覧になっていない方も多いようです。

 

1 問題の所在

 「優れた弁護士」をどのように定義するかは難しい問題ですが、企業法務の分野において、ひとつには「一流企業から信頼をされている弁護士」という表現は抽象論としてのコンセンサスは得られそうです。そういう意味では、日本を代表する企業群にアンケートを実施して、その得票結果を競う手法には一定の客観性を有した結果を期待することができそうです。実際にも、コーポレートガバナンスの分野で、中村・角田・松本法律事務所が信頼されており、労働法の分野で、第一芙蓉法律事務所が信頼されている、というのは、弁護士業界における肌感覚に合致しています。

 ただ、企業間に利害対立が生じる場面での紛争案件の代理人業務についていえば、自己の依頼者の利益を追求するほどに、相手方企業からは嫌われるという構造が存在します(相手方当事者からすれば、「マイナス票を投じたい」という思いにも駆られるそうです)。その点、「ライジングスター」部門に取り上げられた三浦亮太弁護士は、敵対的な買収や社外取締役との対立が問題となった事案を代理したことが評価のポイントとして紹介されており、同弁護士の存在感の大きさを示しています(ランキング記事の解説文において、各弁護士について、どのような活動が取り上げられるかは、読者の印象に影響を与えます。中心的ではない活動だけが掲載されてしまうことによる誤解が生じることもあります。例えば、講演回数が多いという紹介文には、「人気がある」という見方と共に「案件に割く時間が限られている」という解釈も成り立ちます)。

 いずれにせよ、同ランキングに掲載されている弁護士が特筆すべき実績を挙げていることは認められるとしても、同ランキングが対象としているのは、一部にすぎないこと(ランキング以外にも優れた弁護士は存在しうること)には留意しておく必要がありそうです。

 

2 対応指針

 「企業が選ぶ弁護士ランキング」は、204社からのアンケート回答結果によって選出されていますが、回答企業一覧によれば、外資系企業と分類できそうな先は、1社だけです。そのため、「外国クライアントから信頼される日本法弁護士」を知るための資料とはなりません。

 また、回答企業一覧の大半は、東証一部上場企業であるため(かつ上場してからの歴史も長い大企業が中心であり)、「ベンチャー/スタートアップ企業やオーナー系企業から信頼されている弁護士」を知るための資料とはなりません。

 なお、企業法務系弁護士の伝統的なモデルとしては、「クライアントの数を増やすことよりも、限られた数のクライアントとの間での信頼関係を積み重ねることを重視したい」というスタイルも存在しており、クライアント企業の側が信頼する顧問弁護士を著名にすることを望まずに、投票を控えることもあります。

 

3 解説

 日本経済新聞2019年12月16日付け朝刊で、「調査の概要」の「回答企業一覧」に掲げられた先を、証券コードにおける業種別に並び替えると、下記のとおりになります(なお、「東芝」が東証2部である他は、すべて東証1部上場企業です)。

 また、下記の( )内の数字は、上場年を示しています(上場年別に見ると、1949年に上場した先が71社であり、全体の3分の1以上を占めています。また、2014年に上場した「ジャパンディスプレイ」と「西武ホールディングス」の2社が直近の上場先であり、それ以降に上場した企業は含まれていません)。

 それ以外に、回答企業一覧には、未上場企業として、6社(「NTT都市開発」「サントリーホールディングス」「JTB」「日鉄日新製鋼」「日本マイクロソフト」「ニューオータニ」)が含まれています。

 

【水産・農林】

サカタのタネ(1987年)、ホクト(1994年)

 

【建設】

コムシスホールディングス(2003年)、大成建設(1957年)、大林組(1958年)、清水建設(1961年)、長谷工コーポレーション(1961年)、鹿島(1961年)、西松建設(1961年)、熊谷組(1970年)、大東建託(1989年)、住友林業(1970年)、大和ハウス工業(1961年)、積水ハウス(1970年)、協和エクシオ(1963年)

 

【製造業 食料品】

日清製粉(1949年)、ヤクルト本社(1980年)、明治ホールディングス(2009年)、日本ハム(1961年)、サッポロホールディングス(1949年)、アサヒグループホールディングス(1949年)、キリンホールディングス(1949年)、不二製油グループ(1961年)、キッコーマン(1949年)、カゴメ(1976年)、ニチレイ(1949年)、日本たばこ産業(1994年)

 

【製造業 繊維製品】

東洋紡(1949年)、ユニチカ(1949年)、帝人(1949年)、東レ(1949年)、オンワードホールディングス(1961年)

 

【製造業 パルプ・紙】

王子ホールディングス(1949年)、日本製紙(2013年)、北越コーポレーション(1949年)、レンゴー(1949年)

 

【製造業 化学】

クラレ(1949年)、旭化成(1949年)、昭和電工(1949年)、住友化学(1949年)、石原産業(1949年)、東ソー(1949年)、信越化学工業(1949年)、エアウォーター(1950年)、太陽日酸(1949年)、三井化学(1962年)、三菱ガス化学(1962年)、三菱ケミカルホールディングス(2005年)、ダイセル(1949年)、積水化学工業(1953年)、日本ゼオン(1961年)、宇部興産(1949年)、日本化薬(1949年)、花王(1949年)、DIC(1950年)、東洋インキSCホールディングス(1961年)、富士フィルム(1949年)、ライオン(1949年)、ユニ・チャーム(1976年)

 

【製造業 医薬品】

塩野義製薬(1949年)、日本新薬(1949年)、中外製薬(1956年)、エーザイ(1961年)、久光製薬(1962年)、第一三共(2005年)、大塚ホールディングス(2010年)

 

【製造業 石油・石炭製品】

出光興産(2006年)、JXTGホールディングス(2010年)

 

【製造業 ゴム製品】

横浜ゴム(1950年)、TOYO TIRE(1949年)

 

【製造業 ガラス・土石製品】

AGC(1950年)、太平洋セメント(1949年)、東海カーボン(1949年)、TOTO(1949年)、日本ガイシ(1949年)

 

【製造業 鉄鋼】

日本製鉄(1950年)、神戸製鋼所(1949年)、JFEホールディングス(2002年)

 

【製造業 非鉄金属】

日本軽金属ホールディングス(2012年)、三井金属(1950年)、東邦亜鉛(1949年)、三菱マテリアル(1950年)、住友金属鉱山(1950年)、東邦チタニウム(1961年)、UACJ(2005年)、住友電気工業(1949年)

 

【製造業 金属製品】

三和ホールディングス(1963年)、ニッパツ(1954年)

 

【製造業 機械】

日本製鋼所(1951年)、アマダホールディングス(1961年)、牧野フライス製作所(1964年)、DMG森精機(1979年)、SMC(1987年)、コマツ(1949年)、住友重機械工業(1949年)、クボタ(1949年)、荏原(1949年)、日本精工(1949年)、ジェイテクト(1949年)、三菱重工業(1950年)、IHI(1949年)

 

【製造業 電気機器】

日本電産(1988年)、イビデン(1949年)、コニカミノルタ(1949年)、ミネベアミツミ(1961年)、東芝(1949年)、三菱電機(1949年)、明電舎(1949年)、ジーエス・ユアサ(2004年)、NEC(1949年)、セイコーエプソン(2003年)、ジャパンディスプレイ(2014年)、シャープ(1949年)、アンリツ(1961年)、富士通ゼネラル(1955年)、アルプスアルパイン(1961年)、横河電機(1949年)、シスメックス(1995年)、ローム(1983年)、京セラ(1971年)、SCREENホールディングス(1962年)、キャノン(1949年)、東京エレクトロン(1980年)

 

【製造業 輸送用機器】

豊田自動織機(1949年)、川崎重工(1949年)、スズキ(1949年)、ケーヒン(1963年)、ヤマハ発動機(1961年)

 

【製造業 精密機器】

テルモ(1982年)、ニコン(1949年)、オリンパス(1949年)、シチズン時計(1949年)、セイコーホールディングス(1949年)

 

【製造業 その他製品】

凸版印刷(1949年)、大日本印刷(1949年)、ヤマハ(1949年)、任天堂(1962年)、ミズノ(1961年)

 

【電気・ガス】

中部電力(1951年)、関西電力(1951年)、東北電力(1951年)、四国電力(1952年)、北海道電力(1951年)

 

【陸運】

東急(1949年)、京王電鉄(1949年)、京成電鉄(1949年)、東日本旅客鉄道(1993年)、JR東海(1997年)、西武ホールディングス(2014年)、日本通運(1950年)、ヤマトホールディングス(1949年)、山九(1962年)

 

【空運】

ANAホールディングス(1961年)

 

【情報・通信】

グリー (2008年)、ヤフー(1997年)、伊藤忠テクノソリューションズ(1999年)、日本ユニシス(1970年)、スカパーJSATホールディングス(2007年)、KDDI(1993年)、NTT(1987年)、NTTドコモ(1998年)、NTTデータ(1995年)

 

【商業 卸売業】

双日(2003年)、メディバルホールディングス(1995年)、伊藤忠商事(1950年)、三井物産(1949年)、住友商事(1949年)、三菱商事(1954年)、ミスミグループ(1994年)

 

【商業 小売業】

ローソン(2000年)、Jフロントリテイリング(2007年)、セブン&アイ(2005年)、良品計画(1995年)、ファミリーマート(1987年)、高島屋(1949年)

 

【金融・保険業 銀行業】

新生銀行(2004年)、三井住友ファイナンシャルグループ(2002年)、京都銀行(1973年)

 

【金融・保険業 証券・商品先物取引業】

大和証券(1061年)、野村ホールディングス(1961年)

 

【金融・保険業 保険業】

SOMPOホールディングス(2010年)、MS&ADホールディングス(2008年)、ソニーフィナンシャル(2007年)、第一生命保険(2010年)、東京海上ホールディングス(2002年)、T&Dホールディングス(2004年)、

 

【金融・保険業 その他金融業】

クレディセゾン(1963年)、アコム(1993年)、オリックス(1970年)

 

【不動産業】

ヒューリック(1949年)、野村不動産(2006年)、東急不動産(2013年)、三菱地所(1953年)、イオンモール(2002年)

 

【サービス業】

綜合警備保障(2002年)、カカクコム(2003年)、電通(2001年)、セコム(1974年)

 

以上

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