国交省、民法(債権法)の改正を踏まえ、
建設工事標準請負契約約款の改正を決定・実施を勧告
岩田合同法律事務所
弁護士 青 木 晋 治
1. 建設工事標準請負契約約款の改正
令和元年12月23日、国土交通省は、令和2年4月に施行される改正民法への対応等のため、同省に設定される中央建設業審議会において、建設工事標準請負契約約款の改正が決定され、その実施が勧告されたことを公表した。
2. 改正の背景・経緯
令和2年4月1日から改正民法が施行される。改正民法の施行に向け、建設工事標準請負契約約款の規定について見直しを行うべく、中央建設業審議会のもとに建設工事標準請負契約約款改正ワーキンググループにおいて議論が進められていたが、12月13日に開催された中央建設業審議会において、建設工事標準請負契約約款の改正が決定され、12月20日にその実施が勧告された。
3. 改正の概要
(1) 譲渡制限特約
改正民法においては、譲渡制限特約が付されていても債権の譲渡の効力は妨げられないとされたところであるが(改正民法第466条第2項)、発注者、元請人、下請人いずれの立場に立っても一定の意義が認められることから、譲渡禁止特約自体は維持された。そして、公共約款(公共工事標準請負契約約款)については、受注者が前払や部分払等によってもなお工事の施工に必要な資金が不足する場合には発注者は承諾をしなければならないこととする条文、民間約款(民間建設工事標準請負契約約款(甲)、民間建設工事標準請負契約約款(乙)、及び建設工事標準下請契約約款)については、資金調達目的の場合に譲渡を認めることとする条文を選択して使用できることとした。
なお、譲渡制限特約の改正がなされたこと等に併せて、譲渡制限特約に違反した場合や資金調達目的で譲渡したときにその資金を当該工事の施工以外に使用した場合等について、契約を解除できることとした。
(2) 契約不適合責任
改正民法において、「瑕疵」が「契約の内容に適合しないもの」と変更され、その場合の責任として履行の追完と代金の減額請求が規定されたことを踏まえ、約款も同様の変更がなされた。
※ 国土交通省「建設工事標準請負契約約款の改正について(案)」抜粋
(3) 契約解除
改正民法において、瑕疵に関する建物・土地に係る完成後の契約解除の制限規定が削除されたことや双方の責めに帰すべき事由でないときであっても契約を解除できることとされたことを踏まえ、発注者の解除権の規定及び受注者の解除権の規定につき、いずれも催告解除と無催告解除に整理した上で規定し直した。
(4) 契約不適合責任の担保期間
木造等の工作物又は地盤や石造、コンクリート造等の工作物といった材質の違いによる担保期間は民法上廃止されたことを踏まえ、約款において契約不適合の責任期間を引渡しから2年とし、従前の約款におけるコンクリート造等の工作物の担保期間に合わせた期間とする改正が行われた。設備機器等については、従前からその性質から担保期間が縮減されていたことを踏まえ1年とされた。
また、例外として、契約不適合が受注者の故意又は重過失により生じたものであるときには権利行使ができるときから10年もしくは知ったときから5年のどちらが短い方が適用されるとされた(改正民法第166条と同じ期間である)。
※ 国土交通省「建設工事標準請負契約約款の改正について(案)」抜粋
(5) 建設業法の改正に伴う措置
令和2年10月1日に施行される改正建設業法第19条(契約書に記載すべき事項)に、「工事を施工しない日又は時間帯を定めるときはその内容」が追加されたことや「著しく短い工期」による請負契約の締結が禁止されること(同第19条の5)などを踏まえた改正がなされた。
4. 実務上の留意点
本改正により、中央建設業審議会が定める各約款を採用する建設業者においては、請負契約に関する権利行使の方法等が変わり得るので留意が必要である。実務上、建設工事に関する請負契約については中央建設業審議会が定める約款によらず、民間(旧四会)連合協定工事請負契約約款委員会が定める約款による場合もあるが、当該約款についても令和元年12月24日付で民法改正等に合わせた改正がなされることが公表されているので(改正事項等は中央建設業審議会の約款改正と概ね同じ内容となっている)、当該約款の変更についても注意が必要である。
さらに、建設業者によっては、建設工事に関する請負契約につき独自に定める約款により締結されていることがあるが、改正民法に適合した約款の改正に当たっては、今般の改正内容は、その検討に当たり参考になり得るものと思われる。
以 上