新型コロナウイルス感染症の流行が株主総会に与える影響、実務上の留意点
岩田合同法律事務所
弁護士 佐々木 智 生
1. 新型コロナウイルス感染症の流行が株主総会に与える影響
周知のとおり、新型コロナウイルス感染症の発症者が増加している現状を受けて、政府は、令和2年2月25日、「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」[1]を公表し、企業に対し、イベントを主催する際には、感染拡大防止の観点から、感染の広がり、会場の状況等を踏まえ、開催の必要性を改めて検討するよう要請している。
新型コロナウイルス感染症の流行は、株主総会に対しても影響を与えており、令和2年2月27日時点で確認できる各社の主な対応方針は以下のとおりである。今後、近い時期に株主総会を開催する会社は、他社の動向を踏まえつつ、対応方針を検討することが望ましい。
会社名 | 開催日 | 対応方針 |
イワキ | 2/26 |
|
日本毛織 | 2/26 |
|
キユーピー | 2/27 |
|
日置電機 | 2/27 |
|
NODA | 2/27 |
|
大阪有機化学工業 | 2/27 |
|
JT | 3/19 |
|
GMOインターネット | 3/30 |
|
GMOペパボ | 3/30 |
|
2. 実務上の留意点
- ⑴ 株主総会の開催の延期及び剰余金配当の基準日
- 各種イベントの自粛ムードが広がる中、株主総会の開催を延期するとの選択肢もあり得る。もっとも、令和2年2月27日時点において、株主総会の開催を延期した例は、GMOインターネット1社の例が確認できるのみであり、それも9日間という比較的短期間の延期にとどまる。基本的には各社とも延期はせずに、新型コロナウイルス感染症対策を実施した上で株主総会を開催する方向と思われるが、株主総会を予定通り開催するかは、今後の感染拡大状況を注視しつつ判断する必要がある。
- なお、株主総会の延期により、議決権の基準日(多くの上場会社では定款において定時株主総会における議決権の基準日を事業年度末日と定めている。以下同じ。)から3ヵ月を経過した後に定時株主総会を開催する場合には留意が必要である。すなわち、その場合、かかる会社は、あらためて当該定時株主総会における議決権の基準日を設定し、当該基準日の2週間前までに、当該基準日及び基準日株主が行使することができる権利の内容を公告する必要がある(会社法124条2項、同条3項本文)。
- また、定時株主総会の開催時期を議決権の基準日から3ヵ月経過後とする場合、定款で定めた基準日株主に対する剰余金配当を行うことができない点にも留意が必要である。この場合に剰余金配当を行うためには、新たに剰余金の配当の基準日を設定し、当該基準日の2週間前までに公告する必要がある(会社法124条2項、同条3項本文)。
-
法務省は、令和2年2月28日、新型コロナウイルス感染症に関連して「定時株主総会の開催について」[2]を公表しているが、そこに記載された内容は、上記と軌を一にするものである。
- ⑵ 株主の入場拒否の判断
-
新型コロナウイルス感染症に感染している疑いのある株主については、①入場を拒否する、②隔離した株主席に案内する 、③第2会場に入場させる等の対応があり得るが、特に上記①の対応を採った場合には、株主総会決議が取り消され、当該決議の有効性に影響を与える可能性が否定できない。上記②及び③の対応であれば、上記①と比較して決議取消しリスクは低いが、いずれにしても総会当日の状況等を踏まえた慎重な判断が求められる。
- ⑶ 議場対応
- 株主総会において株主から新型コロナウイルス感染症に関連する質問や動議が提出される可能性がある。たとえば、会社において新型コロナウイルス感染症に対していかなる対策を講じているのか、新型コロナウイルス感染症の流行が会社の事業・業績に与える影響等に関する質問がなされることが想定されるため、これらを含めて新型コロナウイルス感染症関連の質問を洗い出し、想定問答を用意しておくことが有益である。
以 上