◇SH0871◇公取委、「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」の改正(案)に対する意見募集 森 駿介(2016/11/09)

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公取委、「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」の改正(案)に対する意見募集

岩田合同法律事務所

弁護士 森   駿 介

 

 公正取引委員会(以下「公取委」という。)は、今般、「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」(平成15年公正取引委員会事務総長通達第18号)(以下「運用基準」という。)の改正を行うこととし、平成28年10月26日、運用基準改正案をパブリックコメント手続に付し、広く一般からの意見募集を開始した。この改正作業は、中小事業者の取引条件の改善を図る観点から、下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」という。)・独占禁止法の一層の運用強化に向けた取組を進めている公取委が、親事業者による違反行為の未然防止や事業者からの下請法違反行為に係る情報提供に資することを目的として進めているものである。また、現在、下請取引の適正化は、アベノミクスの成果のトリクルダウンという観点から政権レベルでの重要施策となっており、経済産業省が、同年9月15日、世耕弘成大臣名において、下請取引適正化に関する政策パッケージである「未来志向型の取引慣行に向けて(通称・世耕プラン)」(http://www.meti.go.jp/press/2016/09/20160915002/20160915002.html)を公表している。今回の改正作業も、世耕プランを受けてのものと考えられる。

 

 下請法は、一定の取引について、業務委託元となる親事業者の下請事業者に対する一定の行為を禁止している。例えば、発注した物品等の受領日から、60日以内で定められている支払期日までに下請代金を支払わなかったり(下請法2条の2、4条1項2号)、下請事業者に責任がないのに発注時に決定した下請代金を発注後に減額したりするなど(同項3号)、相対的に弱い立場にある下請事業者の利益を不当に害する行為が禁止されている。

 公取委は、従来、運用基準に下請法に抵触する親事業者の違反行為事例を列挙し公表することにより、親事業者による違反行為を未然に防止するとともに、事業者からの違反行為に係る情報提供を促してきた。運用基準には、現在、違反行為事例として66事例が定められているが、今般の改正案では、これが一挙に134事例まで大幅に増加されていることが注目される。今回追加される違反行為事例は、公取委による勧告・指導の中で繰り返し見られた行為や事業者が問題ないと認識しやすい行為、公取委が中小企業庁等と共同で実施した大企業ヒアリングで得られた情報等に基づく行為、違反行為の未然防止等の観点から特に留意を要する違反行為等である。

 主な追加事例としては、例えば、以下のような違反行為事例が挙げられる。

  1. ○ 支払遅延(下請法2条の2、4条1項2号)
     親事業者は、自動車部品の製造を下請事業者に委託しているところ、毎月25日納品締切、翌々月5日支払の支払制度を採っているため、下請事業者の給付を受領してから60日を超えて下請代金を支払っていた。
  2. ○ 減額(下請法4条1項3号)
     コンビニエンスストア本部である親事業者は、消費者に販売する食料品の製造を下請事業者に委託しているところ、店舗において値引きセールを実施することを理由に、下請代金から一定額を差し引いて支払った。
  3. ○ 買いたたき(下請法4条1項5号)
     新規事業者は、下請事業者に製造を委託している部品について、量産が終了し、補給品としてわずかに発注するだけで発注数量が現状大幅に減少しているにもかかわらず、単価を見直すことなく、一方的に量産時の大量発注を前提とした単価により通常の対価を大幅に下回る下請代金の額を定めた。
  4. ○ 不当な経済上の利益の提供(下請法4条2項3号)
     親事業者は、量産終了から一定期間が経過した下請事業者が所有する金型、木型等の型について、機械部品の製造を委託している下請事業者から破棄の申請を受けたところ、「自社だけで判断することは困難」などの理由で長期にわたり明確な返答を行わず、保管・メンテナンスに要する費用を考慮せず、無償で金型、木型等の型を保管させた。

 公取委による下請法違反に関する勧告・指導件数は近年増加傾向にあり、平成27年度は計5,984件で平成23年度の計4,344件から4割近く増えるなど、公取委は積極的に取締りを実施している。今般の運用基準改正により禁止対象の行為が一層明確になることから、親事業者自らが違反行為を未然に防止することが期待されるが、他方で、事業者から規制当局に対する違反行為に係る情報提供が進むことにより勧告・指導件数が伸びる可能性もあり、改正運用基準施行後の取締状況の推移が注目される。なお、公取委は、平成28年11月24日までパブリックコメントを実施し、同年中の改正・施行を目指す方針である。

以 上

 

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