◇SH0059◇WTO上級委員会、中国のレアアース輸出規制が協定違反と判断したパネル報告書を支持 松田貴男(2014/08/19)

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WTO上級委員会、中国のレアアース等原材料3品目に関する輸出規制がWTO協定違反であると判断したパネルの報告書を支持

岩田合同法律事務所

 弁護士 松 田 貴 男

 WTO紛争処理上級委員会は、本年8月7日、中国によるレアアース、タングステン及びモリブデンに関する輸出規制について、これが中国のWTO協定義務に抵触するという内容の本年3月26日付WTO紛争処理委員会(以下「パネル」)の判断を支持する報告書を公表した。

 上記紛争は、2006年以降の中国によるレアアース等の輸出割当の削減等を背景に、2012年3月に日本、米国及びEUが「紛争解決に係る規則及び手続きに関する了解」(以下「DSU」)[1]に基づき中国に協議要請を行ったことに端を発する。協議による解決が不調に終わったことを受けて、日本、米国及びEUの要請によりパネルが設置され、パネルは本年3月26日に中国の輸出規制がWTOに違反する旨の大要以下の判断を示した。

  • レアアース等への輸出税の賦課は中国のWTO加盟議定書11条3項における輸出税を付加しない旨の規定に抵触する
  • レアアース等の輸出数量制限は、GATT11条1項の数量制限禁止に抵触する[2] 
  •  レアアース等に関する最低資本金及び輸出実績要求等の貿易権の制限は、中国のWTO加盟議定書5条1項・2項等に規定される貿易権の制限の禁止に抵触する

 なお、パネルは、中国による、上記輸出規制はGATT20条(b)に規定される環境保護のための措置、又はGATT20条(g)に規定される有限天然資源の保全措置として正当化される、等の主張をいずれも排斥した。[3]

 中国は、上記パネルの判断に対して本年4月にWTO紛争処理上級委員会に対して不服を申し立てたものの、今般、上級委員会が、冒頭で述べた内容の報告書を公表した。

 天然資源の大半を輸入に依存する日本にとって、資源国による天然資源の輸出制限措置をWTO紛争解決手続によって法的に解決したことの意義は大きい。今回の中国の輸出制限措置は国内産業の不当な優遇のための措置であったとの評価が可能であるところ、このような保護主義的な行動に対しては、他国と連携して国際的な枠組みに沿った法的措置を毅然として行うことが重要である。

 今後の手続としては、パネル及び上級委員会の報告書はWTO紛争解決機関(以下「DSB」)において30日以内に採択される(DSU17.14)。経済産業省によれば、上記報告書は本年8月29日に開催されるDSB会合において正式に採択される見込みとのことである。DSBにより上級委員会報告書が採択されると、中国によるWTO協定違反の是正措置履行のステージに入るが(DSU21)、仮に中国が「妥当な期間」内 (DSU21.3)に是正措置をとらない場合には、日本、米国及びEUは中国に対して代償を求め、さらにはDSBに中国向け対抗措置の承認を申請することも可能となる(DSU22)。対抗措置としては、関税譲許の停止(報復的な関税引き上げ)又はその他の協定上の義務の停止(相手国に対する差別的な取扱い)が認められる。

以上


 

 

 

WTO紛争解決手続の概観(報告の採択まで)

①      当事国間協議の要請及び協議

協議要請は理由、争点及び法的根拠を記載した書面により行い、WTO紛争解決機関(DSB)にも通知(DSU4.4)

       ↓

②      パネルの設置

被申立国による協議要請受領日の後60日以内に協議による紛争解決ができない場合、申立国はDSBに対して紛争処理委員会(パネル)の設置を要請できる(DSU4.7)

       ↓

③      パネル審理、パネル報告書配布

       ↓

④      【上訴された場合】上級委員会(Appellate Body)における手続・上級委員会報告書配布

上級委員会は原則として60日以内、長くとも90日以内には報告書を作成(DSU17.5)

       ↓

 

⑤      DSBによるパネル・上級委員会報告の採択

(上級委員会への上訴なければパネル報告書の加盟国への配布から60日以内に)上級委員会への上訴があれば上級委員会報告書の加盟国への配布から30日以内にDSBにおいて報告が採択(DSU16.4, 17.14)。採択はネガティブコンセンサス方式(加盟国の全員一致で採択しない旨を決定しない限りは採択される)。

 

 


[2] GATT11条は、「締約国は、(略)関税その他の課徴金以外のいかなる禁止又は制限も新設し、又は維持してはならない」と規定し、貿易の数量制限を一般的に禁止している。

[3] GATT20条は、WTO協議における最恵国待遇、内国民待遇、譲許税率を超えた関税賦課の禁止、数量制限の禁止等の諸原則と、加盟国による正当な国内政策の規制権限を調整するための調整条項として、「一般的例外」事項として(a)ないし(j)を設けている。

(まつだ・たかお)

岩田合同法律事務所所属。2000年東京大学法学部卒業。2000年から2007年まで金融機関に勤務。2008年弁護士登録。2013年Harvard Law School修了(LL.M.)。主な著作:『実践TOBハンドブック改訂版』(共著、日経BP社、2010年)、『取引先の倒産対応マニュアル』(共著、日経ビジネス社、2009年)。

岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/

<事務所概要>

1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。

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