◇SH0206◇大陽日酸、当社子会社元従業員の不正行為に関するお詫びとお知らせ 臼井幸治(2015/02/02)

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大陽日酸、当社子会社元従業員の不正行為に関するお詫びとお知らせ

岩田合同法律事務所

 弁護士 臼 井 幸 治

 平成27年1月20日、大陽日酸株式会社は、その100%子会社であるサーモス株式会社において、同社の元従業員が、平成20年9月から平成23年10月まで、同社の取引先の請求書を偽造・改竄し、同社の経理より不正な利益を詐取したという詐欺の容疑で逮捕されたことを公表した。

 従業員の不祥事事件、特に本件のような不正経理により会社の金員を着服する態様での不祥事事件は、比較的多く散見される事例であり、かつ、発覚が困難な事例である。というのも、このような不正経理を行うことができる者は、経理に関する一定程度の権限と裁量を与えられており、会社は、当該担当者の経理処理について実質的に管理・監督が行き届かないことが多いためである。また、空出張のような事例においては、当該出張に対応する領収書が一応は提出されるため、直ちに不正請求であることを見抜くことは困難である。

 このような不祥事事件が発生した場合、会社としては、まずは会社名義の預金口座に係る取引明細表、帳簿、領収書等の客観的な資料の精査を行い、どのような期間において、どのような不正が行われ、どのような被害が具体的に発生したのかを調査することが必要である。そして、当該調査において判明した、あるいは推測される事実を固めるため、必要に応じ、当該従業員等へのヒアリングを行うことになる。

 会社がこのような調査を行う目的は、法的責任の追及及び再発防止策の策定であると考えられる。

 法的責任としては、大きく分けて3つの責任が考えられ、まずは、①当該従業員の労働契約上の責任であり、就業規則に基づきどのような懲戒処分が妥当かを検討する必要がある。不正行為を行っていた期間の長短、会社の被害金額の多寡等の個別事情により判断は異なるが、懲戒解雇処分を検討せざるを得ない事例が多いであろう。

 次に、②会社として具体的な損害を被っている以上、当該損害の回復手段として、当該従業員に対し、不当利得返還(民法703条、704条)又は損害賠償請求(民法415条、709条)を行うことを検討することとなる。実質的な債権回収可能性という点からの検討は別途必要であるが、これら請求の際の立証のため、当該従業員から債務承認書を徴求したり当該従業員との間で債務承認に関する公正証書を作成したりするなどにより支払請求権の保全を講じておくことが望ましい。

 さらに、③このような従業員の行為は業務上横領罪あるいは詐欺罪に該当することとなるため、捜査機関の積極的な捜査を求めるため、被害届[1]の提出、あるいは刑事告訴[2]を行うことを検討する必要もある。

 会社調査のもう一つの大きな目的である再発防止策の策定にあたっては、不正行為発生要因の分析が不可欠である。例えば、経理に関する権限が過度に集中していないか、社内規程の整備及び運用は十分かといった観点からの検討を行い、当該検討を踏まえた再発防止策を策定する必要がある。

 サーモス株式会社のような事例は今後他社においても起こり得る事象であり、他企業においては、自社の管理体制に不備がないかあらためて確認を行うとともに、不幸にもこのような不祥事事件が発生した場合には、事後的な対応を適切に行う必要があることにご留意いただきたい。また、法的責任の追及及び再発防止策の策定にあたっては、専門的な検討が必要となるため、弁護士等の専門家の活用が有用である。                  以上

不祥事事件において検討する法的責任

法的責任

内容

労働契約上の責任

就業規則に基づく懲戒処分の検討

民事責任

不当利得返還(民法703条、704条)又は損害賠償(民法415条、709条)請求等の被害回復手段の検討

刑事責任

被害届の提出あるいは刑事告訴の検討

 

 



[1] 被害届とは、犯罪の被害に遭ったと考える者が、被害の事実を警察などの捜査機関に申告する届出であり、当該届出自体には特段の法的効力はない。

[2] 刑事告訴とは、犯罪の被害に遭った者が、捜査機関に対し犯罪事実を申告し、犯人の訴追を求める意思表示であり、告訴の法的効果として捜査が開始され、司法警察員は、告訴に関する書類などを検察官に送付する義務を負い、検察官は、起訴・不起訴を通知する義務を負い、請求のあるときには不起訴理由を告知する義務が生ずる。

(うすい・こうじ)

岩田合同法律事務所弁護士。2001年慶應義塾大学卒業。2006年弁護士登録。メガバンク及び大手総合商社法務部への出向等、企業における実務経験も豊富。企業法務全般、訴訟紛争解決、組織再編、再生可能エネルギーに関連するファイナンス組成等、幅広い分野に対応。

岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/

<事務所概要>

1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。

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