◇SH0264◇「不正競争防止法の一部を改正する法律案」が閣議決定 工藤良平(2015/03/24)

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「不正競争防止法の一部を改正する法律案」が閣議決定

岩田合同法律事務所

弁護士 工 藤 良 平

 

 「不正競争防止法の一部を改正する法律案」が、平成27年3月13日に閣議決定された。法改正の趣旨としては、近時、技術情報・顧客名簿等の企業が秘密として管理する情報(不正競争防止法上の「営業秘密」)の国内外への漏えい事案が相次いで顕在化しているという状況を受け、これらの事案における被害金額の高額化及びサイバー空間の拡大に伴う手口の高度化等に対応し、営業秘密侵害行為に対する抑止力の向上等を、刑事・民事両面で図るための改正とされている。

 法改正の概要と現行法との比較は、次のとおりである。

1 抑止力の向上等(刑事・民事)

  • 罰金額の引上げ(個人1千万円→2千万円、法人3億円→5億円)及び海外での営業秘密使用等に係る罰金の海外重課(個人3千万円、法人10億円)並びに犯罪収益の没収規定及び関連する手続規定の創設等(刑事)(新第21条第1項、第3項、第10項等)

※現行法では、懲役:10年以下、罰金:個人1千万円以下、法人3億円以下

  • 営業秘密親告罪の非親告罪化(刑事)(新第21条第5項)

※現行法では、公訴提起にあたって被害者からの告訴が必要となる親告罪

  • 営業秘密の使用に関する推定規定((a) 被告が営業秘密を不正取得したこと、(b) 当該営業秘密が物の生産方法等に係るものであること、(c) 営業秘密を使用する行為により生じる行為によって生じる物の生産等を行ったこと等を原告が立証した場合、被告が当該営業秘密を使用してこれを生産したものと推定する規定)の創設(民事)(新第5条の2)

※現行法では、立証責任の特則はない

  • 営業秘密を侵害していることを知って譲り受けた営業秘密侵害品の譲渡・輸出入等を禁止し、差止め等の対象とする(民事)とともに、刑事罰の対象化(刑事)(新第2条第1項第10号、新第21条第1項第9号等)

※現行法では、規定なし

  • 損害賠償請求をなし得る期間(除斥期間)の延長(10年→20年)(民事)(新第15条)

※現行法では、10年

2 処罰範囲の整備等(刑事)

  • 不正な情報開示が介在したことを知って営業秘密を取得し、転売等を行う者(転得者)を処罰対象に追加(新第21条第1項第8号)

※現行法では、営業秘密の不正取得者(一次取得者)及び当該一次取得者から直接に当該営業秘密を不正に取得した二次取得者による使用・開示のみが処罰対象であり、不正取得者本人以外の者から営業秘密を不正に取得した者は処罰対象外

  • 海外サーバに保管されている日本企業の管理する営業秘密の取得行為等、営業秘密の海外における取得行為を処罰対象に追加(新第21条第6項)

※現行法では、処罰対象は、「日本国内において管理されていた営業秘密」の国外における「使用・開示」行為のみであり、国外における取得行為( 海外サーバに保管されている営業秘密の取得行為を含む。)は、国外犯処罰規定の対象外

  • 営業秘密侵害の未遂行為を処罰対象に追加(新第21条第4項)

※現行法では、未遂行為の処罰規定なし

 

 当該改正案については、現在の第189回通常国会での成立が目指されており、公布の日から六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行することが予定されている。なお、営業秘密の使用に関する推定規定(新第5条の2)は、証拠が被告側企業の内部領域に偏在しているため立証が極めて困難であることから創設された規定であるが、生産方法等に関するいかなる情報が、「技術上の秘密」の取得として同条の適用対象となり得るかについては、政令で定めるものとされているため、政令において同条の適用される技術上の秘密の範囲がどのように定められるかという点も今後注視すべき必要があろう。

以上

(くどう・りょうへい)

岩田合同法律事務所アソシエイト。日本及び米国(NY州)弁護士。2002年東京大学法学部卒業。2006年コロンビア大学ロースクール(LL.M.)修了。2010年東京大学法科大学院修了。2013年シンガポール国際仲裁センター出向。国内外における紛争解決に加え、企業法務全般(特に国際商取引)に係る助言を行う。

岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/

<事務所概要>

1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。

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