◇SH0407◇消費者委、消費者契約法専門調査会「中間取りまとめ」を掲載 大櫛健一(2015/08/26)

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消費者委、消費者契約法専門調査会「中間取りまとめ」を掲載

岩田合同法律事務所

弁護士 大 櫛 健 一

 内閣府に設置されている消費者委員会は、平成27年8月12日、消費者契約法の見直しに関する「中間取りまとめ」(以下「中間取りまとめ」という。)を公表した。

 消費者委員会は、平成26年8月に内閣総理大臣からの諮問を受け、同年10月以降、消費者契約法専門調査会を設置して、消費者契約(消費者と事業者との間で締結される契約をいう。以下同じ。)に係る苦情相談の処理例及び裁判例等の蓄積や、情報通信技術の発達や高齢化といった社会経済状況の変化等の観点から消費者契約法の見直しについて審議を行っていた。中間取りまとめは、その審議内容に基づいて現時点での論点整理と今後の検討方向を示したものである。

 中間取りまとめにおける検討事項は多岐にわたるが、本稿では、実際に法改正が行われた場合に実務上の影響が大きいと思われる「不当条項の類型の追加」(中間取りまとめ36~43頁)を紹介する。

 現行法は、消費者契約に関し、事業者の損害賠償の責任を免除する条項及び消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項の2つの類型を、一定の条件の下に無効とするほか(消費者契約法8条及び9条)、これらの類型に該当しないものであっても、民法、商法その他の任意規定が適用される場合に比して、消費者の利益を一方的に害する条項については無効となる旨の包括規定を置いている(消費者契約法10条)。

 しかしながら、包括規定である消費者契約法10 条の要件は抽象的であるため、契約当事者の予見可能性を高め、紛争を予防する等の観点からは、具体的な条項を無効とする規定を追加すべきではないか(いわゆる「不当条項の類型の追加」)が議論されていた。

 中間取りまとめにおいて、「不当条項の類型の追加」として検討された契約条項は下記表記載のとおりである。

 

      (1) 消費者の解除権・解約権をあらかじめ放棄させる条項、又は、制限する条項

(2) 事業者に当該条項がなければ認められない解除権・解約権を付与する条項、又は、当該条項がない場合に比し事業者の解除権・解約権の要件を緩和する条項

(3) 消費者の一定の作為又は不作為をもって消費者の意思表示があったものと擬制する条項

(4) 契約文言の解釈権限を事業者のみに付与する条項、及び、法律若しくは契約に基づく当事者の権利・義務の発生要件該当性若しくはその権利・義務の内容についての決定権限を事業者のみに付与する条項

(5)本来であれば全部無効となるべき条項に対して、その無効とされる範囲を法律上許容され得る範囲で限定する趣旨の文言を加えたもの(いわゆるサルベージ条項)

 

 中間取りまとめによれば、上記⑴のうち「消費者の解除権・解約権をあらかじめ放棄させる条項」及び⑷のうち「契約文言の解釈権限を事業者のみに付与する条項」(いずれも上記表において下線を付したもの)を例外なく無効とする考え方については消費者契約法専門調査会の審議において特段の異論がなかったとされる。

 また、上記⑵の条項(事業者の解除権・解約権)及び⑶の条項(意思表示の擬制条項)、並びに、上記⑴のうち「消費者解除権・解約権をあらかじめ制限する条項」及び⑷のうち「法律若しくは契約に基づく当事者の権利・義務の発生要件該当性若しくはその権利・義務の内容についての決定権限を事業者のみに付与する条項」についても、一定の場合には当該条項を無効とする規定を設けることも含めて検討を継続すべきとされた。

 中間取りまとめでの議論が、将来の法改正においてどの程度反映されるかは不明であるが、「不当条項の類型の追加」として検討された契約条項を消費者契約に用いている事業者においては、今後の動向を注視する必要があろう。とりわけ、「消費者の解除権・解約権をあらかじめ放棄させる条項」及び「契約文言の解釈権限を事業者のみに付与する条項」については、現行法の解釈としても、仮に裁判所において争われた場合、中間取りまとめまでの審議において例外なく無効とする考え方に異論がなかったという事実が考慮されて、包括的な無効要件を定めた消費者契約法10条に該当するものと判断されるおそれが相当程度あると考えられ、必要に応じて見直しも検討すべきである。

 

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