◇SH0512◇法のかたち-所有と不法行為 第六話-5「フランス中世以来の土地の利用関係」 平井 進(2015/12/22)

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法のかたち-所有と不法行為

第六話 フランス中世以来の土地の利用関係

法学博士 (東北大学)

平 井    進

 

5  1804年のフランス民法第544条

 1804年のフランスの民法典(Code Civil)の第544条は、「所有権は、法律または規則によって禁じられた使用でない限り、最も絶対的に物を享受し、管理する権利である。」[1]と規定する。

 このような所有権の規定の仕方は、前述で見たような対象の利用とその管理という革命前の階層的な機能(活動領域)を反映している。革命後は、これら二つの権能が一人の所有者に帰することになり、上記の所有権の規定では、これらの権能領域が並列に置かれて同一人の活動領域となる。ここにおいて、「管理」とは、対象を利用するかしないか、いかに利用するかを決めることである。

 さて、このように一人の者が支配し、可能となる活動領域を示す所有権の規定は、フランス革命の政治的な課題が従来の封建的・身分的な関係、すなわち「人と人の関係」をなくすことにあったため、そのような関係を否定する「人と物の関係」の概念をとることは好都合であったといえる。

 

6  所有権の制約-土地耕作の義務

 革命において高揚した所有権概念には、前述のフランス民法第544条に見られるように、自ら自由に管理することができることから「絶対的」な概念が伴うのであるが、一方、土地所有者の義務についても論じられていた。

 前述の1791年の農事法を立法する際にラメルヴィルによる報告があり、所有者がその農地を耕作する義務がなければ、社会はその所有権を認めることはできないと述べている。[2]前述のように、重農主義的な考え方が革命期の所有権論に重要な影響を与えていたことからすると、これは当初から所有権の内容を制約していた条件であり、上記の民法第544条における制約という規定につながっていたと見られる。その点では、所有権は自然権ではなく、社会制度として考えられていた。



[1] La propriété est le droit de jouir et disposer des choses de la manière la plus absolue, pourvu qu’on n’en fasse pas un usage prohibé par les lois ou par les règlements.

[2] 参照、吉田克己「フランス民法典第544条と「絶対的所有権」」乾昭三編『土地法の理論的展開』(法律文化社, 1990)202-204, 207頁。Premier rapport du comité d’agriculture et de commerce, sur code rural, par Heurtault de Lamerville, 1790を引用する。民法の起草者のポルタリスや法学者のフルネルも同様のことを述べている。

 

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