東証、売買単位の100株への移行期限の決定について
岩田合同法律事務所
弁護士 柏 木 健 佑
全国証券取引所は、2015年12月17日、上場会社の売買単位を100株単位とする移行期限を2018年10月1日とすることを公表した。
全国証券取引所は、2007年11月に売買単位の集約に向けた行動計画を発表し、投資家の利便性の向上等のために、全国証券取引所に上場する内国会社の普通株式の売買単位を100株に統一することを最終的な目標として取組みを進めてきた。全国証券取引所による売買単位の集約に向けた取組みとしては、2014年4月1日までを期限として、当初8種類存在した売買単位の100株と1000株の2種類への集約が行われており、2014年4月1日からは、売買単位を100株に統一するための移行期間が開始されていた。これまで売買単位を100株に統一するための移行期間の期限は明らかにされていなかったが、今回、その移行期限が決定されたことになる。
株式の売買単位を移行するためには、単元株式数を変更する定款変更のための手続が必要となる[1]。定款変更には株主総会の特別決議を要するのが原則であるが(会社法第466条、第309条第2項第11号)、単元株式数を減少する場合の定款変更は、株主に不利益とはならないため、取締役会決議によって可能である(会社法第195条第1項)[2]。したがって、売買単位を1000株から100株に移行するには、取締役会決議で足りる。
但し、売買単位の移行に伴って投資単位が変更になれば、投資家層の変化も想定され[3]、また、現在の売買単位未満の株主の状況によっては株式事務費用等が増大することも有り得る。東京証券取引所は望ましい投資単位を5万円以上50万円未満としていること(東京証券取引所有価証券上場規程第445条)等とあわせて、売買単位の移行にはこれらの様々な要素の考慮が必要となり、その調整のために同時に株式併合を行うことが必要となることも考えられる(2014年4月1日以降2015年4月1日までに売買単位を1000株から100株に移行した東京証券取引所上場会社の投資単位と併合実施の有無等については下図のとおりである)。
単元変更前の投資単位 |
単元変更後の投資単位 |
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投資単位 |
社数 |
うち併合実施 |
投資単位 |
社数 |
5万円未満 |
0社 |
0社 |
5万円未満 |
18社(17.1%) |
5万円-50万円 |
39社(37.1%) |
16社(15.2%) |
5万円-50万円 |
87社(82.9%) |
50万円超 |
66社(62.9%) |
8社(7.6%) |
50万円超 |
0社 |
※出典:東京証券取引所
「売買単位100株統一の進捗状況について – 売買単位100株統一プロジェクト進行中」(2015年4月24日公表)
http://www.jpx.co.jp/equities/improvements/unit/tvdivq00000050ft-att/unit.pdf
売買単位の移行と同時に株式併合を行う場合には、株主総会の特別決議が必要となる(会社法第180条第2項、第309条第2項第4号)から、単に売買単位を変更する場合とはスケジュール感が異なる。また、個人株主の増加に伴って株主優待や株主総会の会場を見直す必要がある場合も有り得るであろうから、それにも時間を要する場合があるだろう。
今回、売買単位の移行の具体的な期限が示されたことで、売買単位の移行が必要な会社は、取組みの具体化を迫られることになる。取組みの検討に当たっては、まず、投資単位の変動やそれに伴う株式事務費用等の変動との関係で株式併合を同時に行う必要があるか、また、売買単位の移行に伴う投資家層の変動との関係で見直すべき点がないかについて、十分に検討を行う必要がある。
[1] 内国会社が発行する株式の売買単位は、単元株式数とされている(東京証券取引所業務規程第15条第1号a(a))。
[2] 但し、種類株式発行会社において、当該定款変更が他の種類の株主に不利な効果を及ぼす場合には、(会社法第322条第2項の定款の定めがない限り)その株主の種類株主総会による承認を要する(会社法第322条第1項第1号ロ・第3項)。
[3] 東京証券取引所によれば、2014年4月1日以降2015年4月1日までに1000株から100株に移行した東京証券取引所上場会社のうち約86%の会社で個人株主数が増加しているとのことである(株式併合を同時に実施した場合を除く。)。