◇SH0543◇任天堂、ニンテンドーDS用装置(マジコン)の不正競争行為差止・損害賠償等請求訴訟に関する最高裁決定 永口学(2016/02/04)

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任天堂、ニンテンドーDS用装置(マジコン)に対する
不正競争行為差止・損害賠償等請求訴訟に関する最高裁決定

岩田合同法律事務所

弁護士 永 口   学

 任天堂株式会社は、マジコンと呼ばれる装置を輸入販売していた業者らに対して、不正競争防止法(以下「不競法」という。)に基づき同行為の差止めと損害賠償を求めて提起した訴訟につき、第一審及び控訴審において同社の請求を認める判決がなされ、マジコン輸入業者による上告及び上告受理申立てがなされていたところ、最高裁が、平成28年1月12日、上告棄却及び上告不受理の決定を行ったと公表した。

 マジコンとは、不正にコピーされたソフトが起動しないように施された携帯ゲーム機等のアクセスコントロール(技術的制限手段)を回避してゲーム機等を作動させる装置である。違法コピーの横行、正規ソフトの販売数量減少等を招来し得るものであり、知的財産戦略本部の「知的財産推進計画2010」においても、不競法に基づくアクセスコントロール回避規制(以下「本規制」という。)の強化が成長戦略の1つとして記載されていた[1]

 今回の最高裁の判断は、マジコンの輸入販売行為につき差止めと損害賠償請求のいずれも認めたものであり、本規制強化の流れに沿うものである。

 本規制に関しては、平成23年に重要な改正がなされている。

 第一は、いわゆる「のみ」要件の削除である。

 平成23年改正前の不競法では、規制対象が「技術的制限手段を回避する機能のみを有する装置等」に限定されていた(傍点は筆者による。)。かかる「のみ」要件は、機器メーカーの事業活動を過度に抑制しないようにとの配慮から課されていたが、一方で、別の合法的な技術(例えば、音楽プレイヤー等の機能が挙げられる。)を付加すれば、不競法による規制から逃れ得るものでもあった。

 かかる法の隙間を縫って、マジコンのような、追加的に他の機能が付されているために「のみ」要件を欠くと主張する装置等が散見されるようになった事態に鑑み、平成23年不競法改正によって、「のみ」要件は削除されることとなった[2]

 第二は、技術的制限手段に係る不正行為に対する刑事罰の導入である。

 刑事罰の導入により、露店やネットショップにおける販売行為で販売者を特定することが困難である事例、反社会的勢力が販売行為に関わっている事例等、民間企業の努力だけでは解決が困難であると思われる事例に対しても、捜査活動を介した解決が期待できることとなった[3]

 知的財産の創造、活用及び保護を推し進める我が国にとり、技術の進歩に応じて必要な法制度を整備し、適切に運用されていくことが肝要であり、今後も不競法等が知的財産等の保護において重要な役割を果たすことが期待される[4]

技術的制限手段に係る不正行為に関する法改正

法 律

改正内容(引用条文は現行のもの)

効 果

不正競争防止法

「のみ」要件の廃止

(法2条1項11号、12号)

従来は規制対象ではなかった技術的制限手段回避機能とその他の機能を併せて有する装置等も一定の場合(回避の用途に供するために提供する場合)に限り規制の対象となった。

刑事罰の導入

(法21条2項4号、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金又は併科)

民事訴訟から逃れる目的で閉店・開店を繰り返す事業者、悪質な露店やネットショップ、オークションへの出品等でなされる売買、反社会的勢力が関与する事例等への対応が容易となった。

 

関 税 法

輸出入禁止品に追加

(法69条の2第1項4号、69条の11第1項10号)

水際措置による輸出入差止が可能となった。

 



[2] 今回の事案は、平成23年改正前の不競法が適用される事案であるところ、控訴審判決(知財高判平成26年6月12日(判例集未搭載))では、「(平成23年改正前の不競法)2条1項10号の「のみ」とは、必要最小限の規制という観点から、規制の対象となる機器等を、技術的制限手段を妨げることを専らその機能とするものとして提供されている物に限定し、他の目的で供されている装置等が偶然かかる機能を有する場合を除外している趣旨」であるとの解釈がなされ、マジコンが動画や音楽の再生を可能にする機能を有するとしても「のみ」要件を充足するとされたが、「のみ」要件を欠く場合をこのように限定的に解釈することが可能であるのかについては疑問も寄せられていた。

[3] 不競法の改正に併せて関税法の改正も行われ、マジコンなどの技術的制限手段回避装置等が水際規制の対象とされ、平成25年以降毎年輸入差止めが実施されている(https://www.mof.go.jp/customs_tariff/trade/safe_society/chiteki/cy2015/20150918c.htm参照)。

[4] 不競法は平成27年にも改正がなされ、営業秘密の保護の強化がなされている。その概要についてはhttp://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/27kaiseigaiyou.pdf参照。

 

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