企業内弁護士の多様なあり方(第9回)
-第3 訴訟への関与(下)
あおぞら銀行リーガルカウンセル
弁護士 稲 田 博 志
第3 訴訟への関与(下)
2 企業内弁護士の訴訟への関与
(4) 次に、業種やビジネスモデルとは別に、訴訟の類型によっても、その具体的な解(判断)は異なってくるであろう。
たとえば、企業で誰も経験したことのない訴訟-しかも企業の存亡を左右し得る大きさを持つ事件に直面した場合、社外専門家を起用する選択肢(その選択肢の中にも、相談して方針確認した後は企業内で対応する選択肢もあれば、訴訟代理も委任する選択肢もある)をおよそ検討せずに、「企業内(弁護士)に担当させよう」と考えて敗訴した場合、企業として、あるいは取締役等の職責として、合理的な最適行動を取ったと評価されまい。
一方、対極の例として、5万円の少額訴訟を提起された企業が、企業内弁護士には通常訴訟代理させていないことだけを理由に、社外弁護士に着手金10万円で訴訟委任することは、合理的な最適行動と説明しきれないかもしれない(但し、たとえば、象徴的な意味を持つ事件ゆえに、コスト意識より確実勝訴を優先させる等の事情によっても、判断は変わり得るだろう)。
(5) 最後に、訴訟事件においては、企業は、最悪の可能性として、敗訴のリスクも十分考慮した上で目標を設定するべきであろう。
たとえば、合理的に予測しても勝訴困難な訴訟事件なら、敗訴判決の報道によってブランドが傷つく可能性等も検討の上、合理的な和解を選択肢として検討すべきこともありうる。しかし、その場合でも、「最適主体による最適行動」が一律に決まるものではない。社外弁護士も含めたチームにより強力に訴訟追行し、判決直前まで闘って初めて合理的な和解が実現できる事件もある。逆に、当事者双方の訴訟予測が大きく食い違わない場合等、事件の初期~早期段階において合理的な和解が見込まれる事件においては、企業内弁護士中心に対応することによるコスト抑制も、ひとつの考察要素となるであろう。
3 結 語
以上に見てきたところを総じて言えば、企業内弁護士の訴訟への関与のあり方は、訴訟事件を最適解決する為の選択肢の多様性に応じて、さまざまな形態が考えられるということである。すなわち、企業内弁護士のみが訴訟を担当し社外弁護士を使わない対応もあるし、反対の極として、企業内弁護士は訴訟を担当せず社外弁護士に任せる対応もあって、その中間形態がさまざまに存在する(事件によっても変わり得る)のである。
(以下、次号)