◇SH0496◇インド:インド仲裁法の改正 青木 大(2015/12/04)

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インド:インド仲裁法の改正

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 青 木   大

 

 2015年10月23日、インド仲裁法を改正する大統領令が施行された。以下、主要な改正点を紹介する。

1.  国際仲裁に関する手続についての管轄裁判所を高等法院(High Court)に集約

2.  外国仲裁についてもインド裁判所による保全措置の利用が可能に

 2012年の最高裁判例により、外国仲裁についてはインド仲裁法第9条に基づく保全措置が利用できない旨が示されたところ、改正法は、外国仲裁であってもインド裁判所による保全措置が利用可能とした。英国やシンガポールも同様の法制をとる。なお、当事者は、保全措置が命じられてから原則として90日以内に仲裁手続を開始しなければならない。

3.  裁判所による仲裁人選任について申立後60日以内に行われるべき旨の努力義務

 アドホック仲裁において仲裁人の選任について当事者で合意ができない場合には、裁判所による選定が行われるが、かかる選定には場合によって1年以上かかることもあり、仲裁手続の遅延の原因の一つと指摘されていた。本改正は仲裁人選定の迅速化、ひいては仲裁手続全体の迅速化を促すものである。

4.  仲裁廷が命じる保全措置を裁判所において執行可能に

 仲裁廷により命じられる保全措置は、裁判所の命令と同様の効力を有し、執行可能となることが明確化された。保全措置についての仲裁廷の権限強化を図るものであり、シンガポールも同様の法制をとる。他方で裁判所が命じる暫定措置については、仲裁廷構成後は原則として効力を有しないこととされた。

5.  仲裁判断を原則12ヶ月以内に

 仲裁廷構成後原則として12ヶ月以内に仲裁判断が下されなければならないものとされた。これは当事者合意により6ヶ月延長することができる。この期限を過ぎた場合、裁判所が更なる延長を認めない限り、仲裁廷はその役職を解かれることとなる。裁判所は延長を認めるにあたり遅延が仲裁廷の責めによるものと認められる場合には、当該遅延1ヶ月につき5%以下の仲裁人報酬の減額を命じることができる。主要他国の法制に類を見ない規定であり、どの程度実効性ある運用がなされるのか注目される。

6.  簡易仲裁制度

 当事者は仲裁廷構成前に簡易仲裁によることを合意することができる。簡易仲裁による場合、仲裁判断は原則6ヶ月以内に下されることとなり、当事者の請求や仲裁廷の要請がなければ原則として書面のみに基づく審理となる。

7.  弁護士費用を敗訴者負担とさせることができる仲裁廷の権限の明確化

8.  仲裁判断取消事由たる「公序」の内容を明確化

 公序の内容を、①仲裁判断が詐欺又は賄賂による場合、②インド法の根本的方針に反する場合、③最も基本的な道徳又は正義の観念に反する場合に限定。また②の判断に当たっては、仲裁判断の実体の審査には及ばないことも明確化した。

9. 「明確な違法(Patent Illegality)」に基づく取消しは国際仲裁には適用されないことを明確化

 仲裁判断の実質再審理を許しかねないものとしてかねてより批判が強かった判例法理であるが、改正法にて国際仲裁に不適用となることが明確化された。国内仲裁に関しては依然取消事由となるものの、それでも単なる法適用の誤りや証拠判断の誤りはこれには当たらないことも明確化される。裁判所の不当な介入阻止に向けた大きな前進といえる。

10.   取消訴訟の提起によって執行手続が自動的に停止しないことを明確化

 執行手続の停止は別途理由を付した申立を要し、停止には担保提供が命じられる可能性も明示。取消訴訟の提起による執行手続の停止は、インドにおける仲裁判断執行の大きな阻害要因になっており、これが改善されることが期待される。

11.  仲裁判断の執行拒絶事由たる「公序」についてもその内容を上記同様に明確化

 この他にも仲裁法の改正は多岐にわたるが、全体として、端的なUNCITRALモデル法の導入に留まらず、裁判所の不当介入の阻止・仲裁手続の迅速化・効率化に資すると考えられる規定が、相当大胆に導入されている。実際の裁判所においてどのように運用されるかについては今後留意が必要であるものの、まずは大きな前進と評価できる。

以 上

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