警察庁、平成28年度 企業を対象とした反社会的勢力との
関係遮断に関するアンケート(調査結果)
岩田合同法律事務所
弁護士 松 田 貴 男
平成28年12月16日、警察庁は、日弁連民事介入暴力対策委員会及び全国暴力追放運動推進センターとともに実施した、「平成28年度 企業を対象とした反社会的勢力との関係遮断に関するアンケート(調査結果)」の結果(以下「アンケート結果」という。)を公表した。
アンケート結果の概要は、末尾のとおりである、以下、アンケート結果を踏まえた企業法務運営上の留意点を記載する。
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① 不当要求行為の傾向の共有が望ましい
アンケート結果によれば、暴力団による不当要求であると企業が認識していたり、あるいは不当要求者本人が暴力団を自称して要求行為が行われる例よりも、むしろ、同和団体や社会的・政治的活動家と自称する者から、機関紙・書籍・名簿等の購入要請が行われることの方が多い。
反社会的勢力による不当要求に対する適切な対応を行い、反社リスクを軽減するためには、経営陣や専門部署の役職員のみならず、事業部門の従業員に至るまで、アンケート結果に示されたこれらの不当要求行為の傾向に関する認識の共有化が図られることが望ましい。反社会的勢力から不当要求を受けるいわば「水際」や「最前線」において、情報の共有や外部専門家との協調などの初期動作が迅速的確に行われることが重要であるためである。 -
② 取組不十分な企業がむしろ多数であるとの現実を踏まえた対応が望ましい
アンケート結果によれば、政府指針(平成19年6月19日に政府より出された「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」。以下同じ。)を知っている企業が回答企業の全体の約6割にとどまり、政府指針に沿って取組んでいると回答した企業は5割に満たない。回答企業のうち9割以上が非上場企業であることを踏まえてもなお、反社会的勢力排除に関する取組みが不十分な企業の割合が大きい。反社会的勢力との関係に関するリスクの認識や関係遮断の対策の実施という点において、先進企業とそうでない企業との2極化が進行しているのではないかとの懸念はぬぐえない。
反社会的勢力による不当要求は、水が上流から下流に下るように、体制の構築された企業ではなく、体制未構築の段階の企業へと集中して行われていくことが容易に予想される。既に反社会的勢力排除のための対策を実施している企業にとっても、自社における体制構築のみに満足することなく、さらに進んで、以下の対応をとれないか検討することが望ましい。 -
- (a) 自社の子会社・グループ会社における、自社と同等レベルの体制の構築
- → 沿革や人的関係から、子会社・グループ会社が自社グループのいわば「聖域」となり、反社会的勢力との関係遮断の措置について親会社のリーダーシップが発揮できていない例がないか。
- (b) 自社のサプライチェーンや業務委託先における、反社会的勢力との関係遮断体制構築の働きかけ、支援
- → 仕入先、業務発注先など、資本関係はないが業務上の継続的な関係のあるいわゆる協力先が反社会的勢力との関わりを有している場合、自社や他の取引先が規定する暴排条項や反社関係謝絶方針により、当該協力先との既存取引が中止となる可能性がある。かかる場合、サプライチェーンに欠陥が生じ、さらに、自社の商品、サービスやレピュテーションにも悪影響が懸念される。
上記の②(a)及び(b)の対応をとる場合、あるいは自社の体制の見直しや改善を図る場合の参考として、反社会的勢力との関係遮断のための基本的な考え方とこれを進めるために構築すべき社内体制の骨子を以下に示す。
【基本的な考え方と社内体制】
① 新規先か既存先かを問わず取引先が反社会的勢力に属するか否かを調査 ② 新規取引先が反社会的勢力に属すると疑われる場合には契約締結等の関係構築を謝絶 ③ 既存取引先が反社会的勢力に属すると判明した場合には既存の契約関係を解消 |
代表者による基本方針の 社内外への宣言 |
契約書への反社会的勢力 排除条項の導入 |
取引相手の情報収集 (データベース構築) |
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担当部署の決定、設置 顧問弁護士の選定 |
内部規程の見直しと 業務フロー確立 |
外部専門機関 (警察、弁護士) との関係構築 |
政府指針においては、企業は「反社会的勢力とは、取引関係も含めて、一切の関係をもたない」ことが明確に求められている。また、平成23年10月には全国47都道府県にて暴力団排除条例の施行が完了した。多くの企業が反社会勢力の関係遮断へ向けた取組を加速させている昨今、自社、自社グループ、自社のサプライチェーンにおいて反社会的勢力との関係を遮断できない場合のビジネスに与える悪影響は大きい。アンケート結果の公表を契機として、各企業のさらなる改善・自助努力が期待される。
以 上