◇SH2290◇法務省、自筆証書遺言に関するルールが変わります 佐々木智生(2019/01/22)

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法務省、自筆証書遺言に関するルールが変わります

岩田合同法律事務所

弁護士 佐々木 智 生

 

1. 改正の概要

 民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号。平成30年7月6日成立。)のうち自筆証書遺言の方式の緩和に関する部分が、平成31年1月13日に施行された。従前、自筆証書遺言を作成する場合には、遺言者が財産目録を含めた遺言書の全文を自書する(自ら書く)必要があったが、今後は所定の方式を踏むことにより財産目録について自書する必要がなくなる。

 

2. 財産目録に関する新しい方式

 自書によらない財産目録が認められるためには、以下の方式を踏む必要がある。  

  1. ① 財産目録への署名押印
  1. ✓ 財産目録の全ての頁(自書によらない記載が両面にある場合は、その両面)に遺言者の署名・押印が必要(財産目録の改ざんのリスクを防止するため)。
  2. ✓ 上記押印の際は、本文と異なる印鑑を用いてもよい。
  1. ② 財産目録の形式
  1. ✓ 書式は自由であり、遺言者本人がパソコン等で作成したり、遺言者以外の第三者が代筆したりすることも可能。
  2. ✓ 土地については登記事項証明書を、預貯金については通帳の写しを財産目録として添付することも可能。
  3. ✓ 自書によらない財産目録は、本文が記載された自筆証書とは別の用紙で作成する必要があり、自筆証書遺言のうち財産目録以外の部分については、従来どおり自書が必要。
  1. ③ 財産目録の訂正方法
  1. ✓ 自書によらない財産目録を訂正する場合であっても、自書による部分の訂正と同様に、遺言者が、変更の場所を指示して、これを変更した旨を付記してこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければならない。

 

3. 説明

 自筆証書遺言は、公証人が遺言の作成に関与する公正証書遺言とは異なり、簡易に利用し得る制度である一方で、遺言者の死後に遺言の有効性が争われることも珍しくない。そのため、遺言者の意思が記載されたものであることを担保するために、自筆証書遺言は、遺言者が全文を自書することが要求されており(民法968条1項)、従前は、財産目録についても自書することが必要であった。もっとも、財産目録に記載すべき遺産の数が多い場合であっても、それらの遺産に係る情報を全て自ら記載しなければならず、特に、遺産に含まれる不動産の数が多い場合には、不動産に関する地番・地積等の全ての情報を記載する必要があることから、高齢者が多いことが想定される遺言者にとって負担が大きかった。このことにより、自筆証書遺言の利用が妨げられていたといえる。

 今般の改正により、財産目録をパソコンで作成する方法や、不動産については登記事項証明書、預金については預金通帳の写しを添付する方法等が許容されることになり、自筆証書遺言作成の負担は相当程度軽減された(末尾に法務省のホームページから預金通帳の写しを財産目録とする例を引用(https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2019/01/001279214.pdf))。もっとも、方式が緩和されたのは財産目録に限定されており、自筆証書遺言の本文自体は、従来と同様、自筆で書く必要がある。また、自書でない全ての頁(両面の場合は両面とも)について遺言者が署名・押印する必要があり、この点についても留意する必要がある。

 今後ますます高齢化が進行することが予想される我が国においては、遺言はさらに身近な存在となると考えられる。このような時代背景からすれば、自筆証書遺言の方式を緩和してより利用しやすい制度とする今般の改正は、歓迎すべきである。

 その一方で、自筆証書遺言の作成方式が緩和されたことによって偽造や変造のリスクが高まったとみる余地もないではない。今後、金融機関をはじめとする各事業会社においては、相続人の確認を行う際に、相続人や遺言執行者等から、自書によらない財産目録の提示を受けることが確実に予想される。このような場合に備え、確認すべき事項(たとえば、自書によらない財産目録の各頁に遺言者の署名・押印があるか、当該財産目録によって、遺言の対象財産が特定できるか等)をあらかじめ整理し、必要に応じて事業部門とも共有しておく必要があろう。  

以 上

 

 

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