第三者委員会の役割と機能
第三者委員会とは何か――その概要と役割 (第2回)
日比谷パーク法律事務所代表
弁護士 久保利 英 明
Ⅰ 第三者委員会の本質とは何か
6. 費用は誰が負担するか・費用はいくらくらいか
第三者委員会の活動のためにはもちろんお金がかかります。誰が負担するのだ、いくらぐらいかかるのかはシビアな問題です。弁護士の仕事には基本的に2種類の報酬体系があります。1つは、着手金をまずいただき、成功したら成功報酬をいただく。それをあらかじめいくらぐらいと契約した上で進めるというものです。ところが、第三者委員会に、そもそも成功という概念があるのだろうか。着手金をいくらと決められるような訴額があるのだろうか。狙いはその企業の価値の再生ですが、それを訴額とみるのは無理があります。第三者委員会が出せるのは、せいぜい提言までです。最終的な再生は会社が自力でやるしかありません。そうすると、成功報酬方式とは相容れませんよね。
では、もう1つのタイムチャージという方式ではどうでしょうか。あまり効果が上がらないようなスタッフを大量に投入して多額の金額を請求するというのでは、オールステークホルダーのために申し訳ない。費用は、企業のトップがポケットマネーから払うものではなくて、会社の利益、収益の中から払うものです。その根源は従業員の方が働いて会社にもたらしたもの、あるいは、商品を購入した消費者が支払ったものです。こうした方々によるお金が原資になるわけですから、無駄遣いはとんでもない。
そこで、基本はタイムチャージをとりますが、一般的に請求している金額よりもやや低目に抑えます。調査を担当する弁護士1人のタイムチャージは3万円から5万円ぐらいです。相当の力量を持っている人でも5万円ぐらいで抑えることを考えます。どのくらいの時間を使うかはケースによって異なりますが、比較的簡易なケースでも合計で数百万円ぐらいはかかるでしょう。たとえば、スタッフを3人投入して、その人たちが1人100時間使ったとすれば、これだけで300時間。1人のタイムチャージが3万円であれば900万円はかかります。相当節約をしても数百万円単位でかかるというのが正直なところです。
ただし、重大な不祥事が発生したらコンサルタントの指導の下で社長が会見しても企業価値や信用の毀損は止まりません。もし第三者委員会でそれが止まるのであれば、会社として支払う価値はあるとも言えます。仮に深刻で調査範囲も広い不祥事ですと、調査に何ヵ月も要します。3ヵ月かかるケースで、フルタイムのスタッフを6人投入したとすると、委員のチャージやフォレンジックの費用も含めて1億円近いお金がかかることもあります。しかし、その不祥事で企業やステークホルダーが受けたダメージはそんな金額にとどまりません。特に投資家の被った損害はものすごい金額になります。そのような状況から回復し、株価を持ち上げるための第三者委員会の報告書(提言)ですから、ある程度の支出は企業としても腹をくくっていただかなければならない。しかし、もしそれが5億円、10億円となると、それは第三者委員会側がとり過ぎだろうと思います。
7. 社内スタッフの活用と留意事項
その会社の従業員の方々に社内スタッフとして関わっていただくことも必要です。そこで大事なのは、その方々の身分をきちんと守ってあげることです。その方々は、第三者委員会の指揮の下で調査に関わり、一生懸命に働きます。しかしそれは、人事部が日ごろ評価しようとする業務とはまったく異なる世界です。そこで一生懸命不祥事の調査や分析をやったからと報復人事を受けて左遷されるのでは誰もやりたくなくなります。
そこで、たとえば監査部門や内部統制部門の方々をスタッフとして起用する場合は、第三者委員会から会社に対して正式にお願いをします。社長は当然、第三者委員会のために働いてくれという辞令を交付します。
社内の方はよく会社の実態をわかっていますから、抜群の活躍をしてくださいます。NHKの調査のときも、アクリフーズの調査のときも、その会社の方々が獅子奮迅の働きをして鋭い事実を次々と提示してくれました。それは会社の価値を再生する素晴しい活躍で高く評価されるべきです。
また、社外独立取締役や社外監査役の方も取締役会、監査役会の中でぜひ第三者委員会を叱咤激励し、しっかりやれという目で見ていただけるとすごく力になります。
8. 第三者委員会の設置の時期とコンフリクト調査
不祥事発生から、委員会設置決定までの期間 ……… 最大1週間 設置公表からメンバーの確定までの期間 …………… 最大1週間 メンバー確定からメンバー公表までの期間 ………… 即 日 |
第三者委員会はいつ設置すべきかについては、【表】に記したように、不祥事が発生してから、なるべく早いほうがよいと思います。
その際、委員の依頼を受けた弁護士やその所属する法律事務所は、お付き合いのある顧客とのコンフリクトを十分に調査し、問題がないことを確認します。巨大企業の場合になると、多くの子会社や孫会社があります。本体そのものの仕事はしていないが、子会社や孫会社とお付き合いがある、あるいは、事務所として接点があるということがよくあります。この場合、その弁護士は、コンフリクトがあるとして委員就任を避けるのが常道です。ところが、これを守らずに組織してしまった第三者委員会もありまして、そうなると最終的に、独立性がない、なぜコンフリクトがある人材を採用したのだという批判を会社も第三者委員会も浴びることになります。
9. 調査期間と調査報告書の開示までの期間
調査期間は、効率的にやれば最大でも3ヵ月ほどで結論が出るのではないかなと思います。それを4ヵ月、5ヵ月、半年と時間をかけるのは何かがおかしい。効率的な調査と適切なスコープ設定がなされていないからではないかと思います。
もちろん、なかには途中で、会社からこのようなヒアリングをされては困りますという横やりが入るケースもあります。あるいは、事実調査は終わったが、再発防止に向けてどのような提言をすればよいかを委員たちが考え込んでしまっているケースもあります。再発防止策は、弁護士がいくら頭の中や机上で考えても、良いものは作れません。最終的には企業と一緒になって、知恵を出し合いながら作るものですが、良い知恵が出ないことは当然あり得ると思います。
そういうケースでは私は中間報告を検討します。真相究明と真因発見は終わりました、この中間報告がそうですというものです。これをいったん公表した後で、中間報告をベースにして、できるだけ早く「提言」を考えればよいのです。
なお、再発防止策は、何ら個性のない提言では困ります。たとえば、役員の倫理観を向上させる、研修制度を充実するというものは無意味です。その会社にとって、今最も必要で、ふさわしい対策は何かを具体的に提言しなければなりません。そのときに、たとえば経営トップに問題があるのに、クビにするシステムが機能していなかったというなら、すぐにできるようにガバナンスの仕組みを変えなさないと堂々と記載すればよいのです。
10. 第三者委員会報告書の公表と会見
(1) 報告書公表時の会見
最後に、第三者委員会報告書の公表です。このときにまた悩むことがあります。不祥事発覚以降、社長さんやトップはマスコミから集中砲火を浴びていますから、メディア恐怖症になっていることが多いのです。
そのとき、どのような会見をするかが大事になります。よくあるのは、社長さんから頼まれて、第三者委員会の委員長が一緒に席に座ろうとするケースです。これは避けたほうがよい。第三者委員会はあくまでも独立な立場にありますから、社長と委員長とが2人並んで会見するのは独立性がないように見える。したがって、別々に会見するほうがよい。ただし、同日中に時間差をつけて開催する。場所は同じでも違ってもよいですが、少なくとも2人並んでいる映像にしないほうが、会見内容は説得力を増すと思います。順番としては第三者委員会が先でしょう。
(2) 第三者委員会調査中の会見
第三者委員会の調査期間中に社長会見をやられるのも困ります。まったく予測しないことを記者が質問すると、社長さんは、きちんと答えなければいけないと考える。しかし、その答えが、第三者委員会の把握する事実と異なる場合があります。そうなってしまった場合にはどうすればよいでしょうか。もちろん第三者委員会は調査したとおりの事実を書くしかありません。しかし、その社長は、会見で嘘をついたのかと言われ、窮地に陥ってしまいます。
したがって、私は、第三者委員会が調査している最中は、第三者委員会の委員長が途中経過を報告することはあり得るとしても、基本的に会社の側は会見しないほうがよいと思っていますし、事前にそのようにアドバイスします。
もちろん、第三者委員会の委員長についても、基本は途中で情報を流さないものですから、言えることには限界があります。鋭意、スピード感をもってやっています、いつごろには報告書を公表できそうですから、もうしばらくお待ちくださいと言うのが精一杯かもしれません。