監査役協会、本部監査役スタッフ研究会
「監査役監査と監査役スタッフの業務(最終報告書)」を公表
岩田合同法律事務所
弁護士 伊 藤 菜々子
日本監査役協会の本部監査役スタッフ研究会は、7月27日、「監査役監査と監査役スタッフの業務(最終報告書)」(以下「本報告書」という。)を公表した。
1 本報告書の概要
本報告書は、監査役と監査役スタッフの業務について、年間の時系列や活動区分別に6つの項目(①期初業務、②期中業務、③期末業務、④監査役会の運営に関する事項、⑤非日常活動に関する事項、⑥その他不定期活動事項)に分節して、職務区分ごとに「監査役業務のポイント」(法令及び監査役監査基準等に示されている要求事項への対応)、「監査役スタッフ業務のポイント」(具体的な手続き)について記載されている。また、その他にも「スタッフの留意点」、「各社の監査役及びスタッフによる実践事例」、「参考文献」などもまとめられおり、当該業務がどのような根拠条文に基づくものであって、どのような点に留意すればよいのかなど一覧でわかるものとなっている。さらに附属資料として各種のひな型(業務支援ツール)も添付されている。
【図1】
時系列 | 職務区分の例 |
①期初業務 |
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②期中業務 |
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③期末業務 |
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④監査役会の運営に関する事項 |
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⑤非日常活動に関する事項 |
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⑥その他不定期活動事項 |
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2 監査役の果たすべき役割
監査役及び監査役会の役割・責務については、コーポレートガバナンス・コード(原則4-4)において、実効的なコーポレート・ガバナンスの実現のために、監査役及び監査役会がその権限行使に際して、株主に対する受託者責任を踏まえ、独立した客観的立場において適切な判断を行うこと(第1文)、並びに能動的・積極的に権限を行使し、取締役会においてあるいは経営陣に対して適切に意見を述べること(第2文)を求めている。本原則を受けた補充原則4-4①では、社外取締役の独立性と常勤監査役が保有する高度な情報収集能力を組み合わせて実効性を高めること(第1文)、監査役は社外取締役との連携を確保すること(第2文)が求められているところである。
そこで“社外取締役との連携”について本報告書で触れられている部分を一部取り上げてみる。本報告書では、社外取締役との連携(本報告書69頁)に関して、監査役及び監査役スタッフの業務のポイントとして、“社外取締役との連携”の態様を具体的に実務に落とし込んだ形で、【図2】に列挙したような内容がまとめられている。
【図2】
監査役業務のポイント |
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監査役スタッフ業務のポイント |
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なお、本報告書では「監査役スタッフに関するアンケート調査」が添付されており、最近のトピックである会社法改正やコーポレートガバナンス・コードの適用等が監査役の業務にどのような影響を与えたのかの実態調査も行われている。この中で“社外取締役との連携”に関しては、社外取締役との面談時のテーマとして、監査活動で入手した情報の提供、自社の内部統制システム構築・運用状況に関する意見交換、自社の取締役会の監督機能に関する意見交換などがテーマとして取り上げられることが多いようである。他方で、社外取締役との会合は実施していないとする企業も相当程度みられ、社外取締役との連携の具体的な運用については各社で分かれているようである。
3 本報告書の意義
このように、本報告書の内容やアンケート調査結果は、監査役及び監査役スタッフに求められる業務と具体的な各社の取り組み状況について実態を把握できるものとなっているため実務において非常に参考になると思われる。もっとも、本報告書は、汎用性のある内容を目指すという性質上、業界や企業独自の項目や運用といったものは記載の対象とはなっていない。そこで、これらの点は各社において洗い出しを行い、必要に応じて追加したり、見直しをしたりすることによって、各社独自の監査役及び監査役スタッフの業務を遂行していくことが必要であると思われる。
本報告書及びアンケート調査結果については、最近のトピックを踏まえた一般的な監査役及び監査役スタッフの業務の手引きとして、実務上参考になると思われるため紹介した次第である。
以 上