経産省、第四次産業革命に向けた競争政策の在り方に関する研究会報告書を公表
--データを活用したビジネスモデルを4類型に分類、競争政策上問題となるおそれについて検討--
経済産業省は6月28日、「第四次産業革命に向けた競争政策の在り方に関する研究会」(座長=大橋弘・東京大学大学院教授)が取りまとめた報告書を公表した。
いわゆる「第四次産業革命」に関して経産省では、「第四次産業革命に向けた横断的制度研究会」において、新しい産業構造に向けた、競争政策・知財政策などの横断的な制度に関する現状と課題、今後の対応等について検討を行い、報告書を公表していた(平成28年9月15日)。
そして、「横断的制度研究会報告書」をフォローアップした上で、
- • データの集積・利活用の実態について、幅広く事例を集めて類型化
- • データの集積・利活用に関する競争政策上の論点を整理
- • 欧米の議論も踏まえつつ公正・自由な競争による絶え間ないイノベーションを実現するための考え方の提示
を行うべく、今年1月から「第四次産業革命に向けた競争政策の在り方に関する研究会」において検討を行ってきたものである。
以下、報告書の概要を紹介する。
問題意識
さまざまなつながりにより新たな付加価値を創出する産業社会であるConnected Industriesを実現する観点からは、公正な競争が不当に阻害されることがあってはならないのはもちろん、競争政策上問題ではないかという抽象的な懸念によって事業者が躊躇することも望ましくない。
そこで、データの集積や活用の現状を俯瞰した上で、競争環境を整備してイノベーションを促進する観点から、どのようにデータの競争力を評価していくのか、今後どのような事態が想定され、そうした事態が生じた場合にどのような点に着目していくべきかを検討した。
データの活用実態とビジネスモデルの分類
データが競争環境に与える影響を具体的に検証し、データの活用とサービス等の価値の向上との関係性を整理するため、データを活用したビジネスモデルを4つに分類して整理した。
- ① 単独成長型=製品・サービスの改善のため、データを集積・活用
-
② 付随提供型=製品・サービスから得たデータを活用し、付随サービスを併せて提供
(例:製品から得た稼働情報を活用した保守サービス) -
③ 他面活用型=製品・サービスから得たデータを、別の市場で活用
(例:運転支援アプリから得た運転記録を活用して保険料率を設定) -
④ 多面展開型=多数の製品・サービス市場で得たデータを、相互に集積・活用
(例:マッチングやシェアリング等の多様なオンラインサービス、各種アプリ、広告等のサービス間で、データを相互に活用)
一般的な競争政策上の考え方の整理
競争政策上の考え方の基本は「行為×状況」にあり、①特定の「行為」があった上で、②当該行為がどのような「状況」の下で行われているのかを検討することにより、現に競争が阻害されている場合に問題となる。
データを活用したサービス等については、シェア等から明らかになるサービス等の市場の「状況」だけでなく、データに関する「状況」にも留意する必要がある。データの集積や活用による競争阻害という点に絞って考え方を整理すると、以下の「3つのステップ」を順に検討すればよいのではないかと考えられる。
- 【ステップ1】データの影響度(データが製品・サービスにとってどれほどの意味を持つか)
- 【ステップ2】集積可能性(他の競争者が同種のデータにアクセス可能か)
- 【ステップ3】活用可能性(データ活用の上で、資金・人材等に競争上の制約があるか)
ビジネスモデルの分類と競争政策上の考え方の関係
一般的な競争政策上の考え方に基づき、前述したビジネスモデルの類型に沿って、特にどういう点で競争政策上問題となるおそれが生じやすいか検討した。
- ⑴ 単独成長型
- ・ 顧客の増加に伴うモデルの価値の向上が続くことで、支配的な地位が固定化するおそれは否定できないが、競争阻害は限定的な場合に限られると思われる。
- ・ 顧客数とデータ量が相関関係にあるので、競争政策上の検討に当たっては市場シェアが重要であり、その上でネットワーク効果等の影響を考慮する必要がある。
- ・ 市場が一つしかない単独成長型では、まさにその市場でシェアを維持することが重要であるから、特に競争段階においては、問題は生じにくい。
-
→ 単独成長型では、一つのサービス等の中でデータの集積と活用が閉じているため、当該サービス等の市場の競争環境のみを検討すれば基本的には足りると考えられる。
- ⑵ 付随提供型
- ・ 基本的には、他の事業者も同じビジネスモデルを構築可能であり、競争は維持されやすい。
- ・ ただし、片方のサービスの提供等のみを行う事業者との関係では、競争阻害が生じ得る。
- ・ もっとも、その場合であっても、データの影響度合いや競争促進効果等を見ていくと、競争阻害と評価される場合は限られる。
-
→ つながっている他の商品・サービスの市場のシェアやつながり方が重要。
- ⑶ 他面活用型
- ・ 顧客の違うサービス等を組み合わせるため、場合によっては違うノウハウ等が必要であり、追随が困難となり得る。
- ・ 一方で、組み合わせの選択肢が多いため、組み合わせ次第で同様の効果を得ることも可能であり、むしろ追随が容易になる場合もあり得る。
- ・ そのため、競争者が同じビジネス形態で展開できるか、または違うビジネス形態で同様のデータを得られるかが重要。どちらかが認められれば、競争が阻害されているとはいいがたい。
-
→ つながっている他の商品・サービスの市場のシェアやつながり方が重要。
- ⑷ 多面連動型
- ・ 関係する市場が多岐にわたり、相互に影響を与え合うため、市場シェアを中心とした考え方ではとらえにくい。
- ・ どの市場について検討するのか、どこまで影響範囲に含めるかを精査した上で、追随の困難さや組み合わせの豊富さに留意しつつ、データの集積や活用の可能性を検討することが重要。
- ・ 行為の面では、特にプラットフォーム事業を有している場合、自らが参入していない市場における排除行為が想定される点にも留意。
- → 各市場のシェアよりも、市場間を貫くデータ自体の影響力の把握が重要。
想定事例
事業者が意図せず競争を阻害してしまうような事態を未然に防ぐために、起こり得る下記の事例を想定し、あらかじめ競争政策上の整理を検討している。
- ⑴ 行為の類型ごとに想定される事例
- ・ アクセス拒絶
- ・ データの提供者に対する拘束
-
・ セット販売
- ⑵ ビジネスモデル類型によらず横断的に行われ得る行為の検討
- ・ 共同での排除行為
- ・ デジタル・カルテル
- ・ 取引相手に対する優越的な地位の濫用行為
-
○ 経産省、第四次産業革命に向けた競争政策の在り方に関する研究会報告書を取りまとめ(6月28日)
http://www.meti.go.jp/press/2017/06/20170628001/20170628001.html -
参考
SH0808 経産省、「第四次産業革命に向けた横断的制度研究会」報告書を公表(2016/09/22)
https://www.shojihomu-portal.jp/article?articleId=2081018