◇SH2854◇ベトナム:M&A実務に大きな影響を与える通達06号の施行(上) 中川幹久(2019/10/29)

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ベトナム:M&A実務に大きな影響を与える通達06号の施行(上)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 中 川 幹 久

 

 外国直接投資に関する外為管理について定めた通達06/2019/TT-NHNN号(以下「通達06号」)が本年6月26日付で成立し、9月6日に施行された。ベトナム現地で特にM&A実務に携わる関係者の間では、通達06号は、様々な頭を悩ませる問題を提供してくれるホットな話題の一つとなっている。通達06号は、日本企業がベトナムで子会社を設立したり、非上場のベトナム企業を買収する際の資金決済手続きなどについて定めており、複数の点で、従前の通達19/2014/TT-NHNN号(以下「旧通達」)に基づく枠組みを実質的に変更している。そのため、ベトナムにおけるM&A実務に与える影響も大きい。他方で、その内容には、様々な不明瞭な点も存在し、頭を悩ませる問題を提供している。本稿では、こうした実務に重要な影響を与えると思われる点に焦点を当てつつ、通達06号の概要について、2回に分けてご説明したい。

 

通達06号の適用対象

 通達06号では、外国直接投資活動をその適用対象とすることが明記されており、外国直接投資活動として、具体的に、投資資金の出資、外貨建て及びベトナムドン建ての直接投資資本金口座(通称「DICA」。以下「DICA」という)の開設・使用、投資準備行為のための送金、資本金・利益等の海外送金、出資持分の譲渡及び投資プロジェクトの譲渡の各行為を挙げている。証券取引所に上場されているベトナム企業に関する外為管理については、通達06号の適用対象外とされ、別途、外国間接投資に関する外為管理令で規定することとしている。

 

DICAを開設する必要がある場合[1]

 旧通達では、外国直接投資活動を行うため「外国投資企業」はDICAを開設することとされ、この「外国投資企業」は「外国投資家が設立・運営のため資金を出資している企業で、ベトナムにおいて投資活動を行う企業」と定義され、例えば、外国投資家の出資比率の多寡や、外国投資家が設立当初から出資している場合であるのか、事後的に出資持分を取得した場合であるのかを明確に区別することなく定義されていた。そのため、こうした点の不明瞭さに起因して実務上混乱が生じることも少なくなかった。これに対し、通達06号では、DICAを開設する必要がある「外国直接投資を受けた企業」(以下「FDI企業」)を以下のとおり明記している。

  1. (a) 外国投資家を出資者又は株主として設立された企業で、投資法に基づき投資登録証の取得手続きを取る必要がある企業
  2. (b) (a)以外の場合で、外国投資家が51%以上の定款資本を保有することとなる、以下の場合
    1. (i)  (外国投資家にとって条件付き投資分野であるか否かを問わず)当該企業の出資持分又は株式を外国投資家が出資・取得し、その結果、外国投資家が当該企業の定款資本の51%以上を保有することとなる場合
    2. (ii)  会社分割・合併等の結果、外国投資家が当該企業の定款資本の51%以上を保有することとなる場合
    3. (iii) (企業法以外の)特別法に基づいて当該企業が新設される場合
  3. (c) 投資法に基づくPPPプロジェクト実施のため外国投資家がプロジェクト会社を設立した場合

 通達06号では、外国投資家が設立当初から出資する場合のみならず、事後的に出資持分を取得した場合でも、その結果として外国投資家の出資比率が51%以上となるときはDICAを開設する必要があることが明確になった。

 他方で、通達06号においても不明確な点は残る。例えば、具体的にどの時点でどのような条件が揃えば金融機関がDICAを開設することができるのかが明確ではない。そのため、特に、ベトナム内国企業の出資持分を外国投資家が取得する取引など、取引実行のためにDICAを新設しなければならない場面では、実務上混乱が生じることが懸念される。すなわち、当事者が当該取引を実行することについて法的拘束力を有する契約を締結したことをもって、DICAの開設が認められるのか、それ以前の時点でも、例えば法的拘束力のないMOUが締結された段階でも開設が認められるのか、また逆に、当該取引にかかる契約が締結されDICAが開設されたものの何らかの理由でクロージングに至らなかった場合に一旦開設されたDICAの取扱いはどのようになるのか等につき何も規定されておらず、実務上混乱が生じることが懸念される。

 

投資準備行為に要する費用の支払

 実務上、外国投資家がベトナム企業への出資を検討している場合、ライセンス手続きを含めた出資手続自体が完了する前の段階であっても、例えば現地でのオフィス開設に向けた準備等の開業準備活動が必要となり、これに要する費用の支出を迫られる場面は少なくない。旧通達では、こうした外国投資家がベトナム企業の持分取得を完了する前の資金の支払いについて正面から定めた規定は置かれていなかった。通達06号では、投資登録証の発行、投資法上の投資登録の完了前であっても、外国投資家は、海外の銀行口座から直接に、又は、ベトナム国内の金融機関の口座から、ベトナム国内に向けて開業準備行為に要する費用を支払うことができることが明記された。また、投資登録証が発行され、又は、投資法上の投資登録が完了した後は、かかる開業準備行為のために支払った費用については、①その全部又は一部を出資金に振り替えること、②その全部又は一部を当該FDI企業の借入金(クロスボーダーローン)に振り替えること、③未使用の残額がある場合には、これを返金するべく海外送金することがそれぞれできることが明記された。

(下)につづく

 


[1] 本文でご説明する、FDI企業に該当する場合以外にも、外国投資家が事業協力契約(BCC)の当事者となる場合や、外国投資家がプロジェクト会社を設立せずにPPPプロジェクトを実施する場合にもDICAを開設する必要があるが、本稿では紙面の都合上説明を割愛する。

 

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