◇SH1293◇実学・企業法務(第65回) 齋藤憲道(2017/07/20)

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実学・企業法務(第65回)

第2章 仕事の仕組みと法律業務

同志社大学法学部

企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

5. 代金回収

D.倒産後の債権回収[1]

 倒産までは、他の債権者に先行して、少しでも多く回収するように努めるが、倒産後は、法令に従って、秩序ある回収をする。

再生
 経営破綻した企業が、会社更生法や民亊再生法を適用して再生を図る場合は、債権がカット(債権放棄)されるので、自社のカット率を考慮しつつ更生計画への賛否の態度を決める。

 再生の成否は人材とスポンサーの有無にかかるので、自社が再生企業の有力な販売先または仕入先である場合は、人材の派遣、出資、業務提携等を要請される可能性がある。

  1. 〔再生例1:私的整理〕
    裁判所を利用せず、当事者間の話し合いで再建計画を作成して実行する方法で、マスコミに「倒産」「経営破綻」と報道されにくい[2]。簡易な方法だが、当事者間で全員一致の合意が成立しにくく、主要債権者である金融機関や親会社[3]の意向が重要である。
    経営者のモラルハザード、公平性・透明性を欠く、という印象を社会に与える可能性もある。
  2. 〔再生例2:特定調停〕
    「借金が多く返済困難」、「破産は避けたい」、「返済方針を合意して家計・事業をやり直したい」と考える個人・法人が利用する。債権者の取立て行為が規制され、正当な事由が無い限り債務者と直接連絡を取ることも禁止されるので、多重債務者に適す方法である。
    債権者の同意を前提条件として、整理する債務を選択でき、通常は3年で返済する。ただし、特定調停の事実は、返済(通常3年)後5年が経過するまで「事故情報」として信用情報機関[4]に登録される[5](いわゆるブラックリストに載る)ので、この間、融資を受けられない。

〔破産〕
 支払不能又は債務超過にある債務者の財産等の清算に関する手続である。債権者その他の利害関係人の利害、及び、債務者と債権者の間の権利関係を適切に調整して、債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図り、債務者についても経済生活の再生の機会の確保を図る[6]

 裁判所に破産手続き開始の申立を行い、その申立に破産手続きの開始原因(支払不能又は債務超過[7])があると、裁判所は破産手続き開始の決定を行い、同時に、破産管財人を選任する。

 その後は、破産管財人のもとで、債権調査を行って要支払総額(破産債権)を確定し、一方で、換金できる資産を競売等によって換価して破産財団を確定する。

 破産財団から管財人報酬等を控除した残額から、国税・地方税、国民年金・厚生年金・健康保険等の公課、労働債権等の私債権、一般破産債権(材料仕入れ代金、借入金等)、劣後的破産債権、約定劣後破産債権、の順に控除した後で、なお破産財団が残れば、その残額が配当手続きによって配当される。

 地方裁判所から会社(代表取締役)宛に「破産手続開始通知書」が届いたときは、経理部門・法務部門等が協力して破産会社に対する自社の債権額[8]を整理・集計し、それを「破産債権届出書」に記載して「破産手続開始通知書」に記載された要領(破産債権届出期間[9]、提出先等)に従って届け出る。

 そのうえで、債権者集会に参加し、その破産手続きの全体像を俯瞰して、回収できる金額を試算し、自社の損失額(ほとんどの場合、債権額の100%回収はできないので損失が発生する)を計算して、適切に経理処理する。

 なお、破産しても免責されない非免責債権[10](例えば、破産者の悪意の不法行為に基づく損害賠償請求権)は、その時効が成立するまで回収に努める。



[1] 過剰担保の公序良俗違反(最判平成12・4・21)、相殺権濫用(最判昭和53・5・2)

[2] 民事再生または会社更生手続の申立てがなされた時点で「倒産」「経営破綻」と報道されると、顧客や取引先などの関係者が、「申し立てた会社は、事業の継続が不可能な状態に陥った」と誤解して、取引を縮小し、経営が危機的状況に陥ることが懸念される。

[3] 帝国データバンクの調査によれば、1985~2004年3月31日までの間に行われた債権放棄の件数は940件で、このうち親会社(銀行以外)がその系列企業に対して債権放棄したものが550件(件数構成比58.5%)であった。

[4] 全国銀行協会関係の「全国銀行個人信用情報センター(KSC)」(2017年3月末現在、会員数1,180会員、保有情報量9,390万件)、信販・消費者金融・クレジットカード・保証・リース等関係の「株式会社日本信用情報機構(JICC)」(2017年5月末現在、会員数1,411社、登録件数3億7,217万件)等の信用情報。

[5] KSCの場合の期間。なお、日本信用情報機構(JICC)の場合は、特定調停の申立日から5年以内。

[6] 破産法1条(目的)

[7] 破産法16条1項、15条

[8] 手形・小切手債権、売掛金、貸付金、求償権、約定利息金、遅延損害金等を、証拠書類(写し)を添付して届け出る。

[9] 債権届出期間は、裁判所が、破産手続開始決定の日から2週間以上4カ月以下の間で定める。ただし、知れている破産債権者で日本国内に住所、居所、営業所又は事務所がないものがある場合には、4週間以上4ヵ月以下とする。(破産規則20条1項1号)

[10] 破産法253条1項1~7号

 

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