◇SH1731◇実学・企業法務(第126回)法務目線の業界探訪〔Ⅰ〕食品 齋藤憲道(2018/03/29)

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実学・企業法務(第126回)

法務目線の業界探訪〔Ⅰ〕食品

同志社大学法学部

企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

〔Ⅰ〕食品

4. 事故・事件の例

例2 アクリフーズ「農薬混入事件」[1] (以下、㈱アクリフーズを「A」という。)

〔参考にしたい教訓〕

  1. ・ 事故発生時は報道・報告等が切迫し、関係官庁も多いので、平時から対応訓練する。
  2. ・ 消費者安全情報を公表するときは、多数の相談に即応できる体制を迅速に構築する。
  3. ・ 商品の安全管理の仕組みは、性悪説に立って構築する。
  4. ・ 成分の危険性等のデータを日常的に点検し、平時のリスク・マネジメントに活かす。
  5. ・「危険品」の範囲を、OEM[2]商品を含めて、簡明に理解できる情報を市場に提供する。

(1) 経 緯

2013年 11月13日 Aへ消費者から群馬工場の製品に関する1件目の異臭(石油臭)苦情が発生。
その後も、同様の異臭申し出を複数件、受け付け。
  12月13日 Aが検査を委託した外部検査機関が、苦情現品からAで使用しない有機溶媒を定性検出。
  12月26日 苦情現品から有機溶媒を定量検出。
  12月27日 苦情現品から農薬マラチオン(以下、「M」という。)2,200ppmを検出。
  12月29日 Aが群馬県(保健所)等に報告。
第1回記者会見「全ての群馬工場製品を賞味期限に係わらず自主回収。Mの毒性は弱い。」

  1. (注) 図表で「商品の裏面に製造者『A群馬工場』と記載する全商品」と説明し、製造者欄に「A群馬工場」と記載されていない「プライベートブランド商品(以下、「PB」という。)」についての周知が漏れた。

Aが準備できた電話は50回線未満。消費者からAに電話が殺到し「不通」が続く。
厚生労働省が、群馬県より自主回収の報告を受けた旨を公表し、群馬県に原因調査等を指示。

  12月30日 消費者庁が「A群馬工場が製造した冷凍食品は食べずに返品を」と注意喚起(第1報)し、同時に、消費者庁HPに商品情報を掲載。
群馬県(保健所)がA群馬工場に立入調査。
食品安全委員会(内閣府)が、Mの毒性が強い旨を厚生労働省に伝え、Mの毒性を同委員会のHPに掲載。
厚生労働省は、Aとその親会社に、①速やかに自主回収し、②Mの毒性の見解を修正するよう指導。
  12月31日 Aが第2回記者会見「厚生労働省の指導を受け、Mの毒性評価につき訂正・謝罪」
厚生労働省がAから「店頭の撤去終了」の報告を受取。
食品安全委員会(内閣府)がMの概要及び関係府省庁の公表資料を約1万人にメルマガ配信。
農林水産省が約16,000人に本件情報をメルマガ配信。
2014年 1月4日 消費者庁がPBを含む「パッケージ画像入りの回収商品一覧」を公表。

  1. (注) 12月29日の時点でPBの「商品名」「JANコード[3]」「賞味期限」等を公表できていれば、混乱が少なかった。
  1月5日 消費者庁が、①回収品一覧と、②消費生活センター等で相談に応じる旨、を公表。
  1月6日 消費者庁都道府県等の消費者行政担当部署に、①A内専用電話、②Q&A等の情報を提供。
厚生労働省が、Aと親会社の「回収状況、消費者相談への対応状況」と、全国の地方公共団体が公表した「健康被害が疑われる事例」をまとめて、翌日以降、随時、公表。
  1月7日 消費者庁が関係官庁に「消費者安全法」の規定に基づく消費者庁への速やかな通知を要請。
  1月8日 A幹部が消費者担当大臣に、自主回収発表までの経緯等を報告。
同大臣がA幹部に、①消費者への速やかな情報提供、②行政に対する速やかな報告、③回収対象商品(特にPB)を消費者が認識できる情報提供、を要請。
  1月9日 Aの電話110回線。
厚生労働省「国際的な食品安全問題に関する情報共有ネットワーク(INFOSAN)」へ情報提供。
  1月11日 Aの電話220回線。以降、全国の消費生活センターへの相談件数が減少。
  1月14日 消費者安全情報総括官会議を開催(関係省庁局長級の情報共有)
①自主回収発表から2週間経っても電話相談が増加、②関係行政機関等への迅速な情報提供、③PB商品を含む情報周知に関し、関係府省庁・関係業界を含めた取組が必要、と判断した。
  1月16日 農林水産省が小売・卸売に、①消費者への情報提供の徹底、②回収の協力要請、を通知。
  1月25日 警察がA群馬工場の契約社員Xを容疑者として逮捕。
  1月31日 A「農薬混入事件に関する第三者検証委員会」発足
  3月14日 消費者安全情報総括官会議を開催(関係省庁局長級の情報共有)再発防止の取組等を議論。
  3月17日 「冷凍食品への農薬混入事案を受けた今後の対応パッケージ」(関係府省庁[4]局長申合せ)

  1. 〔検討に当たっての基本的な考え方〕局長申合せ要旨
  2. ○ 冷凍食品への農薬混入事案は、消費者の食への信頼を揺るがす。再発させないことが重要。
  3. ○ 意図的な混入の疑いがあるときは、再発防止・被害拡大防止に当たり、事業者の業種・規模・施設に応じ、労務管理を含む経営全般の対策が必要。事業者自身が措置するのが基本。
  4. ○ 政府は、事業者の対策を促すため関係府省庁が取組を検討し、情報共有し、連携して取り組む。
  3月31日 マルハニチロHDの社長と品質保証担当常務、Aの社長、計3名が引責辞任。
  4月21日 農林水産省が「食品への意図的な毒物等の混入の未然防止等に関する検討会」を開催。
  4月30日 A「農薬混入事件に関する第三者検証委員会中間報告公表
  5月29日 A「農薬混入事件に関する第三者検証委員会最終報告公表
  8月8日 犯人Xに、偽計業務妨害罪で懲役3年6か月の判決。(前橋地方裁判所)
  9月25日 マルハニチロがXに1億円(対策費5億9,700万円の一部)の損害賠償を請求した民事訴訟で、1億円(満額)の支払いを命じる判決。(東京地方裁判所)

 


[1] 「消費者白書(第186回国会提出)」及びマルハニチログループ「CSR報告書2014(特別版)」により作成。

[2] Original Equipment Manufacturer(委託者の商標を付した製品の受託製造)

[3] 「どの事業者の、どの商品か」を表す国際的な商品識別番号。GS1(国際的な流通標準化機関、本部はベルギー)が定める国際標準の識別コードを設定するために必要なコード。国際的にはGS1 Company Prefixといわれる。日本では、一般財団法人流通システム開発センターが事業者の登録を受け付けて、GS1事業者コード(旧称:JAN企業コード)を貸与する。13桁(標準)と8桁(短縮)があり、流通業界等ではバーコードが用いられる。

[4] 警察庁、食品安全委員会、農林水産省、厚生労働省、消費者庁

 

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