法務省、「中間試案後に追加された民法(相続関係)等の改正に関する
試案(追加試案)」に関する意見募集
岩田合同法律事務所
弁護士 冨 田 雄 介
本年8月1日、法務省は、「中間試案後に追加された民法(相続関係)等の改正に関する試案(追加試案)」(以下「追加試案」という。)をパブリックコメントの手続に付した。
民法の相続関係の法改正については、平成28年6月に中間試案が取りまとめられ、同年7月から9月までパブリックコメントの手続に付されていたが、今回は、中間試案後に追加された新たな試案が改めてパブリックコメントの手続に付されたものである。
追加試案は、①遺産分割に関する見直し等、及び②遺留分制度に関する見直しについての試案となっている。また、上記①の試案は、(a)配偶者保護のための方策、(b)仮払い制度等の創設・要件明確化、(c)一部分割、(d)相続開始後の共同相続人による財産処分に係る各試案に細分化される。
【追加試案の概要】
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①(a)配偶者保護のための方策に係る試案は、配偶者の死亡により残された他方配偶者の生活保障の要請が高まっていることを踏まえたものである。かかる生活保障の要請に対し、中間試案においては、配偶者の相続分を一定の条件で引き上げるという考え方が提示されたものの、パブリックコメントでは反対の意見が多かった。そこで、追加試案では、婚姻期間が20年以上である夫婦の一方が他の一方に対して居住用不動産を贈与又は遺贈した場合には、民法903条3項[1]の持戻し免除の意思表示があったものと推定する規定を設けることが提案されている。
①(b)仮払い制度等の創設・要件明確化に係る試案は、平成28年12月19日最高裁大法廷決定により相続預貯金債権は原則として共同相続人全員が共同して行使する必要があることになったことを踏まえ、葬儀費用の支払等の資金需要に対応できるように、一定の条件下で相続人が単独で相続預貯金の払戻しを受けることを認めるものである。追加試案では、(b-1)家事事件手続法の保全処分の要件を緩和して、家庭裁判所の判断より預貯金債権の全部又は一部を仮に取得させる方策と、(b-2)家庭裁判所の判断を経ずに、相続開始時の債権額の2割にその相続人の法定相続分を乗じた額(ただし、債務者ごとに100万円を上限とする)について、単独の権利行使を認める方策が提案されている。(b-1)は裁判所への申立てが必要となること、(b-2)は仮払いが認められる金額が一定限度にとどまることから、これらの試案どおりに改正がなされたとしても相続人のニーズに十分に応えられるかは明確ではなく、なお金融機関が自らのリスクで便宜払いを強いられる場合があり得ると思われる。
①(c)一部分割に係る試案は、実務上、争いのない遺産の一部について先行して一部分割をすることについてのニーズがあるものの、現民法下ではかかる一部分割が有効であるかが明確でなかったため、この点を明文化するものである。
①(d)相続開始後の共同相続人による財産処分に係る試案は、現民法下では、共同相続人が遺産分割前に遺産共有となった財産を処分した場合に遺産分割においてこれをどのように処理すべきかが明らかではなかったことから、この点を明確化するものである。具体的には、(d-1)遺産分割前の処分があった場合も、当該処分をした財産については、遺産分割の時において遺産としてなお存在するものとみなすとする甲案と、(d-2)遺産分割前の処分があった場合、他の共同相続人は、当該処分をした者に対して償金請求をすることができるという乙案が提案されている。
②遺留分制度に関する見直しに係る試案は、現民法下では遺留分減殺請求権の行使によって当然に物権的効果が生ずるとされている点を見直すものである。具体的には、遺留分権の行使により、遺留分侵害額に相当する金銭債権が生ずるものとしつつ、受遺者等において、金銭の支払に代えて、受遺者等が指定する遺贈等の目的財産を給付することができるようにするものである。
今後は、本年末または来年初めに要綱案の取りまとめが予定されているとのことであり、引き続き、パブリックコメントの結果も踏まえた改正の動向に注意する必要がある。
以 上
[1] 「被相続人が前二項(※特別受益者の相続分)の規定と異なった意思を表示したときは、その意思表示は、遺留分に関する規定に違反しない範囲内で、その効力を有する。」