◇SH1408◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(13)-組織文化の革新の理論的考察④ 岩倉秀雄(2017/09/26)

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 コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(13)

――組織文化の革新の理論的考察④――

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、シャインをベースに心理的安全性を作り出す8項目について解説し、それらは、全て用意され、ほぼ同時に実現される必要性があることを述べた。今回は、古い概念に変わる新しい概念を学ぶメカニズムについて検討する。[1]

 

1. 革新の認知的再定義

 基本的に、従業員が新しい行動を強制された場合、行動をチェックされ罰則を課される場合には新しい行動を示し続けるが、行動だけではなく、新しい認識・定義・判断基準が内面化されなければ、本当の意味での新しい価値観(組織文化)は身につかない。

 例えば、何らかの必要により、新たにコンプライアンスプログラムを浸透させる場合を

 想定するとわかりやすい。 

 経営トップがその遵守を宣言し、社内規定に落とし込んで従業員に強制するとともに、守らない場合には処罰し人事評価にも反映、組織全体で取り組んでいる場合、たいていの従業員は納得していなくても、表面的にはコンプライアンス遵守の行動をとる。

 しかし、表面的にコンプライアンス遵守の行動をとったとしても、従業員やその集合である組織の価値観(組織文化)に浸透・定着していなければ、時間の経過と共に「やらされ感」が発生し、もとの慣れ親しんだ価値観(組織文化)にもどる可能性が高い。

 (第3者委員会が指摘するように)組織が不祥事を発生させる原因となる組織文化を持つ場合には、社会の批判が止んだ後に、元の慣れ親しんだ組織文化に戻り、再びコンプライアンス違反を発生させる可能性がある。

 これは、筆者が従来から述べてきた主張[2]であるが、シャインの指摘と一致した。

 組織文化革新プログラムでは、従業員の多くが大幅に考え方の転換を求められることになるが、組織が十分な心理的安全性(特に革新の対象者に対して)を生み出すことができれば、転換は可能であり、そのためには、従業員が新しい行動が組織と自分にとってプラスになると確信を持ち、新しい評価基準とその意味を自身に内面化できる(組織的には、組織文化に浸透・定着させる)必要がある。[3]

 

2. 新しい概念の内面化(再凍結)

 シャインは、新しい概念や評価基準を学ぶメカニズムは2通り[4]あり、1つは役割モデルを模倣し心理的に同一化するやり方であり、もう一つは自分にあった独自の解決法を自分で作り続けることであると指摘している。そして、前者は、仕事のやり方や概念が明白な場合に、後者は学習者の個性に合わせる必要がある場合に有効であるとしている。

 革新の最終段階は、新しい行動を自然に行なうことができるように新しい概念を内面化する(組織なら組織文化に浸透・定着させる)ことであり、その行動が学習者の上位者(組織では経営トップ)の期待や社会環境などに調和(社会の期待と要請に合致)している場合には、その行動は個人とグループ(組織)にとって安定化すると言う。[5]

 シャインは、組織内の個人が価値観の革新に成功するケースを取り上げているが、筆者は、組織全体でも同様のことが言えると考える。なぜなら、組織は個人の集まりであり、成員一人ひとりの革新が実現できなければ、組織全体の革新も実現できないからである。

 組織全体の革新を成功させるためには、経営トップ以下経営幹部のリーダーシップと革新のメカニズムを踏まえたプロセスの設定・実行が必要であり、革新の方向が社会の期待と要請に沿っていなければならない。

 今回は、古い概念に変わる新しい概念を学ぶメカニズムについてシャインを基に検討し、個人の革新だけではなく組織全体の革新に活用できることを考察した。

 組織が組織文化の革新を成功させるためには、新しい概念や価値観を組織成員に内面化させる必要がある。そのためには、成員に心理的安全性を生み出すとともに、新しい行動を明確に定義し、その行動が自分と組織にとってより望ましい結果をもたらすという確信を持たせる必要がある。また、経営トップはその行動を主導(または承認)し、社会の求める方向と一致していることを認識させる必要がある。

 次回は、成熟期の組織における組織革新のメカニズムについて考察する。



[1] Edgar H.Schein(2009)“The Corporate Culture Survival Guide : New and Revised Edition ”尾川丈一監訳・松本美央訳『企業文化〔改訂版〕――ダイバーシティと文化の仕組み』(白桃書房、2016年)115頁~120頁

[2] 岩倉秀雄『コンプライアンスの理論と実践』(商事法務、2008年)

[3] シャイン・前掲[1] 117頁

[4] シャイン・前掲[1] 117頁~118頁

[5] シャイン・前掲[1] 119頁

 

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