下請法違反の勧告事例(タカタ株式会社)
岩田合同法律事務所
弁護士 田 中 貴 士
公正取引委員会(以下「公取委」という。)は、平成29年7月18日、タカタ株式会社に対し、下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」という。)4条1項3号(下請代金の減額の禁止)の規定に違反する行為が認められたとして、下請法7条2項に基づく勧告(以下「本勧告」という。)を行った。
本勧告において、タカタは、下請事業者と単価の引下げ改定を行った際、単価引下げの合意日前に発注した部品等についても引下げ後の単価を遡って適用することにより、下請代金の額(引下げ前の単価を適用した額)と発注後に引き下げた単価を遡って適用した額との差額を下請代金の額から差し引いていたとされている。いわゆる新単価の遡及適用による減額の事案であり、過去にも同種の事例として、曙ブレーキ工業株式会社に対する勧告(平成16年12月7日)、橋本フォーミング株式会社に対する勧告(平成17年1月27日)などがある。
親事業者が下請事業者と単価の引下げ交渉を行うに際し、例えば、2月から3月を交渉期間、4月1日を単価改定日と予め設定していたとする。そのとき、実際には4月まで交渉がずれ込み、4月15日になって下請事業者と単価の引き下げの合意が成立したとしても、親事業社の担当者としては、下請事業者が納得していれば、当初の予定どおりに4月1日を新単価(引下げ後の単価)の適用開始日として、同日からの発注分についても新単価を適用したいと考えてしまいがちである。あるいは、親事業者の単価管理のシステム上、月の途中から単価を変更することができないために、4月1日からの発注分について新単価を適用したいという事情もあるかもしれない。
しかし、単価の引下げ交渉が合意に至った際に、すでに発注済みのものにまで新単価を遡って適用することは、下請法上問題となる。
下請法4条1項3号は、下請事業者に製造委託等をした場合に、下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに下請代金の額を減ずることを禁止している。ここにいう「下請代金の額」とは、具体的には、親事業者が発注に際して下請事業者に交付すべき発注書面(下請法3条)に記載された下請代金の額である。上記の例でいえば、少なくとも4月1日から4月14日までの発注分については、旧単価(引下げ前の単価)が発注書面に記載されているはずであり、当該旧単価が下請代金の額となる。下請事業者の同意を得た場合であっても、その下請代金の額を減ずることは、下請事業者の責めに帰すべき理由のない限り、下請法4条1項3号に違反することになる。
したがって、上記の例でも、単価引下げの合意が成立する前に発注されているものについて遡って新単価を適用することは、下請事業者の同意を得たとしても許されない(図1①②参照)。
また、単価引下げの合意時に「納品日」を基準に新単価の適用開始日を定めると、旧単価で発注されているにもかかわらず新単価を適用しまうという期間が生じやすいので、あくまで単価引下げの合意が成立した後の発注分についてのみ新単価が適用されるよう、新単価の適用開始日の定め方には留意が必要である(図2③④参照)。
なお、本勧告では、以上のような新単価の遡及適用の問題とは別に、タカタは、下請事業者に対しコストダウンの要請を行い、「一時金」を下請代金から差し引いていたともされている。この「一時金」の実情は明らかでないが、過去には、上記の曙ブレーキ工業に対する勧告の事例で、単価引下げに応じることができない、又は単価の引下げに一部応じたが目標額に達しない下請事業者に対して、本来支払うべき下請代金から「一時金」等と称して一定の金額を差し引くことにより、下請代金の額を減じていたというものがある。このように、下請事業者との単価の引下げ交渉が合意に至っていないにもかかわらず、下請代金の額から一定の金銭を差し引くことが下請法4条1項3号に違反することはいうまでもない。