実学・企業法務(第85回)
第3章 会社全体で一元的に構築する経営管理の仕組み
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
前章まで、会社では、技術・製造・営業等のライン部門と、人事・経理・法務等のスタッフ部門が連携して事業目的の実現に取り組んでいることを観察してきた。
本章では、法令等に規定されて企業実務に大きな影響を与えている「コーポレート・ガバナンス」、「内部統制システム」、「リスク・マネジメント」及び「コンプライアンス確保」について考察する。
4つの仕組みを個々に取り扱う解説は多いが、実は、この4つは、互いに他の仕組みの構成要素になっていて、全体の構造が分かり難い。
例えば、①会社法が株主総会への報告を義務付けている「事業報告」の中の「内部統制システムの概要及び運用状況[1]」の欄では「リスク・マネジメント」や「コンプライアンス」を説明するように求められ、②金融商品取引法が提出を義務付ける「有価証券報告書」の中の「コーポレート・ガバナンス[2]」の欄では「会社の機関」「内部統制システム」「リスク・マネジメント」について書くことが求められる。
筆者は、会社が自らの経営理念(あるいは、経営戦略、経営目標)を実現するためには、活力創造(エンジン)と広義の遵法(ブレーキ)の2つの機能を有する経営管理システムが、不可欠だと考えている。そして、それは、各社が自ら設計・構築すべきものである。
上記の4つの仕組みは、エンジン機能は弱いが、ブレーキ機能は強力でかつ整理されているので、会社の自前の経営管理システムが社会の要請に適うものであることを確認するための評価基準として有用である。
- (注) 本来、「内部統制システム」にはエンジン機能が含まれるはずだが、それを具体的に明記する法令・指針等を見かけない。従って、本項では、(主に)ブレーキ役を果たすものとして取り扱う。
(参考)独自に開発された経営管理システムの例
松下電器の事業部制、トヨタ自動車のジャスト・イン・タイム方式、京セラのアメーバ経営等の経営管理システムは、事業の創生期に経営者が工夫を重ね、社員の創意・活力を経営に採り入れ、業務目標を設定し、経営成果に結び付けること等を目的として作り上げたものである。
これらのシステムは、会社の発展の牽引力となった
本項では、次の3ステップで経営管理システムのあり方を考える。
- (注) エンジン機能の考察は別の機会に譲り、本編では必要最小限の範囲で言及するに止める。
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1. まず、4つの仕組みを個々に観察し、相互間の関係を考える。
次に、会社が法的義務を負って作成し、提出・報告等する各種の報告書等の中で、この4つがどのように取り扱われているのかを確かめる。
(注) 次回以降、主な項目ごとに、関係性が強い他の項目をマーク(○□◇☆)で示している。(マークの意味は掲載箇所で説明する。) - 2. 企業経営の枠組みや運営の仕組みを規定する法制度の変遷(明治23年~今日)を観察し、今後の経営管理システムの展開方向を考えるための示唆を得る。
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3. 全社の一元的な設計を必要とするその他の経営管理システムの例として、「商品・サービスの安全性の確保」と「情報セキュリティ管理」を観察する。
(注) この2例のような「特定の目的」のための経営管理システムは他にもあり、全社の経営管理システムのあり方を検討するときは、それらを全て含めて考える必要がある。
本項では、制度間の相違点と類似点の理解を容易にするために、基本的に、取締役会設置・監査役設置の上場(東京証券取引所)大会社を前提として記述している。
他の種類の会社(監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社、中小会社等)については、文中の注記等で付言するので、参照して頂きたい。
[1] 会社法施行規則118条2号。会社法348条3項4号。会社法施行規則100条1項1号~5号。「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型(改訂版)2016年3月9日 日本経済団体連合会」36~40頁参照。
[2] 開示府令15条1項1号イ。第3号様式(記載上の注意37)。