◇SH0712◇中国:会社法司法解釈(四)意見募集稿(その2) 川合正倫(2016/06/27)

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中国:会社法司法解釈(四)意見募集稿(その2)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 川 合 正 倫

 前稿では、「中華人民共和国会社法」の適用に関する若干の問題についての規定(四)(意見募集稿)(以下「本司法解釈案」という。)の規定事項のうち、(1)会社意思決定機関の決議の効力及び(2)株主の情報収集権について紹介した。本稿においては、(3)株主による利益配当請求、(4)持分譲渡の際の優先買取権、(5)株主直接訴訟及び株主代表訴訟について紹介する。

 

3.株主による利益配当請求

 利益配当案に関する有効な株主総会決議が存在するにも関わらず、会社が利益配当を行わない場合に、株主が会社を被告として利益配当を求めることができ、裁判所が利益配当を命じた場合には、訴訟に参加しない利益配当請求権を有する株主に対してもその効力が及ぶことが明確にされた。

 

4.持分譲渡の際の優先買取権

 会社法では、有限責任会社の株主が持分権を譲渡する場合、定款に別段の定めがない限り譲渡を希望する株主は、持分譲渡に関する事項を他の株主に通知し、過半数株主の同意を得なければならず、同意を得た譲渡持分については同等の条件において他の株主が優先買取権を有することとされている。

 

〈優先買取権の行使ができない場合〉

 本司法解釈案では、有限責任会社の株主が優先買取権を行使できない以下の各状況が規定されている。なお、定款に別段の規定がある場合を除くとされており、これらの事項については定款自治が認められている。

  1.  相続、遺贈等の事由による変更が生じるとき
  2.  株主間において持分譲渡が行われる場合
  3.  株主以外の者に持分を譲渡し、他の株主が譲渡持分の一部のみを買い取ると主張する場合

〈譲渡通知及び同等の条件〉

 また、本司法解釈案では、譲渡を希望する株主が他の株主に対して行う通知には、譲受人の氏名又は名称、譲渡持分の種類、数量、価格、履行時期及び方式等の持分譲渡契約の主要内容を含めるべきことが規定されている。その上で、会社法上の「同等の条件」については、譲渡価格、支払方式及び期限等の要素を総合的に考慮した上で確定することとされた。

〈優先買取権を損なう契約の効力〉

 本司法解釈案では、優先買取権を損なう以下の状況がある場合には、持分譲渡契約が無効となる旨が規定されている。

  1. (1) 会社法及び司法解釈に規定する手続を履行せずに持分譲渡契約を締結する場合
  2. (2) 他の株主が優先買取権を放棄した後、株主が譲渡価格の減少等の方法により会社法及び司法解釈に規定する同等の条件を実質的に変更し、株主以外の者に持分を譲渡する場合
  3. (3) 株主が株主以外の者と悪意を持って共謀し、虚偽で高い価格を報告する等の方式で会社法及び司法解釈に規定する同等の条件に違反した結果、他の株主が優先買取権を放棄したが、双方の実際の取引条件が書面通知の条件を下回る場合

〈持分譲渡を制限する定款条項の効力〉

 有限責任会社の定款において、株主の持分譲渡に関して過度の制限を行うことにより実質上、持分譲渡が不可能となる場合には、当該条項は無効となりうることが明確にされた。

 

5.直接訴訟及び株主代表訴訟

 会社法では、董事、監事又は高級管理職に法律又は定款等の違反があり、会社に損害が生じた場合には、一定の要件を満たす有限責任会社の株主は、会社の監事等に対して、会社を原告とし法令違反者を被告とする訴訟の提起を請求することができ、監事等が訴訟提起しない場合には、株主が自己の名義により直接訴訟提起することが可能とされている。

 本司法解釈案においては、上記各類型の訴訟に関する当事者や訴訟参加の手続、訴訟中の調停締結のための手続等について規定されている。また、親会社の株主が100%子会社の利益が損なわれることを理由に100%子会社に対する民事責任を追及する訴訟を提起することが可能とされている。

 

6.まとめ

 以上、前稿と本稿にわたって「中華人民共和国会社法」の適用に関する若干の問題についての規定(四)(意見募集稿)の主要な点について紹介した。本司法解釈案においても十分な明確化が図られていない事項は残されているものの、本司法解釈案は、法律規定が抽象的であることが原因となり各地方によって実務が異なるという問題の解消に寄与するものとして、一定の評価が可能である。本司法解釈案に対するコメントは既に締め切られており、早期の施行が期待される。

以 上

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