欧州司法裁判所のインテル判決
(2・完)ロイヤリティリベート
McDermott Will & Emery法律事務所
弁護士 Wilko Van Weert
弁護士 武 藤 ま い
本稿の第二部では、ロイヤリティリベートに関する本判決の判断について考察したい。
欧州委員会決定
欧州委員会は、インテルが主要なコンピューターメーカーに対して、その製品に用いる全て又はほとんどのx86 CPUをインテルから購入することを条件にリベート(いわゆる「ロイヤリティリベート」。一般裁判所は、これを「排他的リベート」と呼んだ。)を与えることで、インテルが市場支配的地位を濫用したと判断した。この判断にあたり、欧州委員会は、「同等に効率的な競争者(as-efficient competitor)」テスト(以下、「AECテスト」という。)を適用したが、同テストは、欧州委員会がその決定においてインテルの競争法違反を認定する上で重要な役割を果たした。AECテストは、仮想の同等に効率的な競争者が市場支配的地位にある事業者のリベートスキームによって市場から排除されるか否かを判断するために用いられるテストである。
一般裁判所の判決
一般裁判所は、排他的リベートは、それ自体で(per se)競争を歪め、競争者を排除することができるため、排他的リベートの適法性を判断するに当たって当該事件の全要素を評価する必要はなく、また、欧州委員会によるAECテストの適用について評価する必要はないと判示した。
欧州司法裁判所の本判決
欧州司法裁判所は、その判決において、市場支配的地位にある事業者がロイヤリティリベートを与えることは違法と推定されることを確認した上で、当該推定は、市場支配的地位にある事業者が調査の過程において証拠に基づきその行為は競争者を排除する等の競争制限的効果を有しないと主張した場合には反証可能であることを明らかにした。そして、欧州司法裁判所は、そのような場合、欧州委員会は、ロイヤリティリベートが濫用的であるか否かを認定するにあたり、①関連市場における当該事業者の支配の度合い、②当該リベートの市場カバー率、③リベート付与の条件、④リベートの期間及び⑤額、並びに⑥同等に効率的な競争者を排除する戦略の潜在的存在について検討しなければならないと述べた。さらに、欧州司法裁判所は、ロイヤリティリベートが濫用的であると認定された場合、欧州委員会は、当該スキームにより得られる効率性が、同等に効率的な競争者の排除効果を上回るかどうかを検討しなければならないとも述べた。
また、欧州司法裁判所は、欧州委員会がこのような検討、すなわちAECテストを実施している場合には、一般裁判所は当該検討・実施に関する当事者のすべての主張を検討しなければならないにもかかわらず、一般裁判所は本事件においてこれを怠ったと判断した。欧州司法裁判所のこの判断は、今後、欧州委員会がAECテストを実施して上訴審でその適否が争われた事件では、一般裁判所は自ら分析を行う必要があり、単に欧州委員会の評価に依拠することはできないことを示唆している。
欧州司法裁判所のこのような効果を基礎とするアプローチは、欧州委員会が2009年に発行した「支配的事業者による濫用的な排除行為に対するEC条約第82条(現TFEC第102条)の適用における欧州委員会の執行優先事項に係る指針」が、リベートスキームが競争者を排除するか否かの判断のためには効果を基礎とした分析を用いることを推奨していることと整合的である。
おわりに
本判決は、市場支配的事業者又は潜在的な市場支配的事業者に対し、重要な意味合いを含んでいる。本判決は、ロイヤリティリベートの違法性の推定は、当該リベートには同等に効率的な競争者の排除効果がないことを示す証拠を提示することで反証可能であることを明らかにし、TFEU第102条のリベートへの適用について経済学的アプローチを受け入れた。その結果、欧州委員会は、ロイヤリティリベートスキームを濫用的と認定するにあたり、徹底した経済学的分析を行う必要があるだろう。これまで法令遵守意識の高い企業は、ほぼそれ自体(per se)違法と考えられていたロイヤリティリベートの採用には躊躇してきたが、今後は、そうした企業も、ロイヤリティリベートの採用をより前向きに検討し出すであろう。その際には、欧州司法裁判所が本判決において示した分析枠組みに従い、同等に効率的な競争者が排除されないか否かを検討されたい。