◇SH1514◇弁護士の就職と転職Q&A Q25「パートナー審査は緩いほうがいいのか?」 西田 章(2017/11/27)

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弁護士の就職と転職Q&A

Q25「パートナー審査は緩いほうがいいのか?

西田法律事務所・西田法務研究所代表

弁護士 西 田   章

 

 法律事務所の新人採用数は、必ずしも足許の景気を反映しているわけではありません。内定時と入所時にはタイムラグがあります(2008年末は、リーマンショックの直後ですが、金融危機の発生前に内定を受けていた多数の新人が弁護士登録をしました)。他方、パートナー審査は、事務所の足許の景気も反映して決定されているように見受けられます。現状では、金融緩和と同様に、新規パートナー昇進数の緩和も続く傾向が明らかになってきましたので、今回は、パートナー昇進基準を取り上げてみたいと思います。

 

1 問題の所在

 弁護士としての優秀さを測る軸はひとつではありません。「アソシエイトとしての優秀さ=与えられた事件を適切に処理する能力」と「パートナーとしての優秀さ=新規の顧客・案件を獲得する能力」は異なるものとされています。企業法務系弁護士の典型的な成長シナリオは、「アソシエイトとして事務所案件の下請けで処理能力を磨いた者が、まずは、小さくとも、自分の顧客を少しずつ獲得するようになり、次第に獲得できる案件の規模も大きくなり、売上げも増えて行く」というものです。

 ただ、事務所の仕事が忙しい場合には、シニア・アソシエイトになっても、事務所案件に忙殺されることとなり、「自分の事件の開拓」に回す時間を確保できない、という問題が生じます。他方、事務所が暇になると、今度は「パートナー(収益分配者)を増やす余裕がない」という問題が生じます(「パートナー=経費負担者」とみれば、景気が悪いほうがパートナーを増やす動機付けが働く事務所もあるかもしれませんが)。

 また、伝統的な一匹狼的な弁護士像からすれば、「弁護士たるもの、自分を信頼してくれた顧客のために全力を尽くす」というポリシーが導かれがちですが、収支まで共同する事務所の場合は、「事務所の看板・ブランド力」を高く評価して、「案件を取って来るのは、チームプレーである」「良い仕事をすることが最大の営業活動である。顧客は後から自然についてくる」という見方もできます。

 そこで、パートナー昇進基準としては、「アソシエイトとして優秀な人を昇格させるべきなのか?それとも、パートナーとして事務所経費を支える売上げを立てられそうな人を昇格させるべきなのか?」が問われることになります。

 

2 対応指針

 一流事務所においては、「アソシエイトとして優秀」なのは、パートナーの必要条件とされています。「アソシエイトとして平凡」であれば、仮に、口八丁手八丁で売上げを立てる技があったとしても「同じ船に乗る仲間」には迎え入れられません。問題は、「アソシエイトとして優秀」を十分条件として、「自分では売上げを立てられない」者もパートナーとして認めるかどうかです。

 リーマンショック後に、パートナー昇進数を絞り込みすぎたために、優秀な人材を流出させてしまった経験も受けて、最近では、「パートナー」カテゴリーに階層を設けて、「アソシエイトとして優秀な者はジュニア・パートナーに昇格させて、ジュニア・パートナー期間に、売上げ責任を果たせるかどうかを見極める」という多段階選考が主流になりつつあります。

 

3 解説

(1) リーマンショック後の人事政策の反省

 2008年9月の米国発のリーマンショックは、日本の法律事務所にとっても大きなショックをもたらしました。それまで日本のリーガルマーケットは、バブル崩壊等にも関わらず(むしろ不良債権処理に伴う業務を追い風として)順調に拡大を続けていましたが、市場の拡大が止まりました。その後も、2011年3月には東日本大震災もあり、「所属弁護士数が増えるだけでは、売上げは増えない」ことを痛感させられました。そのため、「同じ業務分野に似たようなスペックのパートナーが増えても、売上げに貢献しない」という意見が出されるようになり、結果的にパートナー昇進数は絞り込まれました(政策的に数を絞る、というよりも、個別の審査案件でスーパーマジョリティの賛成を得られずに、昇進を求める議案が否決されることが増えました)。

 審査を受けたシニア・アソシエイトにとっては、「パートナー昇進を否決された」というのは、「事務所にとって必要な人材ではない」というメッセージと受け止めざるを得ませんので、別のキャリア(他事務所、インハウス又は独立)へと方向転換を促されました。また、そのようなシニア・アソシエイトの移籍に自分の将来の姿を重ね合わせたジュニア・アソシエイトが、早期にキャリアの見直しを図る事例も増えていました。

(2) ジュニア・パートナーの昇格基準

 大企業の好景気の維持による売上げの安定化に支えられて、現時点では、法律事務所では「アソシエイトとして優秀ならば、パートナーに引き上げるべきである」という意見が多数派を占めるようになっています。

 リーマンショック後の人事においては、「売上げ能力がない」とみなされてパートナー審査を落とされた者も、結果として、独立後の事務所等で営業力を磨いて生存している姿が確認されていることも、人事政策に影響を与えています。すなわち、「『アソシエイト』という地位のままで営業力を求めるのは無理である」「営業力を問うのならば、一度は、『パートナー』という肩書を与えるべきではないか」という発想です。

 もっとも、このように、ジュニア・パートナーの昇進条件を「アソシエイトとしての優秀さ」だけに限定した場合には、「ジュニア・パートナーは過渡的なポストなのか? それとも恒久的に留まり続けられるポストなのか?」という新たな問題も浮上させています。結果として、ジュニア・パートナー時代に営業力を磨いて、売上げ面の貢献度も拡大した者がシニア・パートナーに昇格するのは美しいシナリオです。他方、「『優秀なアソシエイト止まり』だった」ということが判明した場合に、『パートナー』としての地位を保持させるべきか、それとも、『カウンセル』に降格させるべきなのかは未だ定説を見ない状況が続いています。これは、景気後退時を見越した重要な経営課題となりそうです(売上げに貢献しないジュニア・パートナーが増え過ぎた場合には、その固定給を下げるか、歩合給的な設計に変更することにより経費負担を下げる方法を検討しなければなりません)。

(3) シニア・パートナーの昇格基準

 ジュニア・パートナーの昇格基準としては「売上げ」を問わない方針も正当化されるようになりましたが、シニア・パートナーへの昇格基準には、「売上げ」を考慮しないわけにはいきません。最近の事務所経費の高騰(オフィス賃料と人件費の増加)の傾向に鑑みれば、今後もシニア・パートナーへの経費負担はさらに高まっていくものと予想されています。

 ただ、売上げを重視する意識が行き過ぎてしまうと、単年度の売上げを追求し過ぎるあまりに、顧客との長期的信頼関係を損なうリスクも認識されています(危機管理のような性質の案件であれば、依頼者も料金に不満を述べにくいですし、リピートを期待するものでもありませんが、M&Aやファイナンス案件であれば、依頼者の不満は、次回案件の事務所選定に跳ね返ってきてしまいます)。また、経費負担の重さが、内部会計面での不正行為を誘発するリスクも認識されてきています。

 「売上げ」は、顧客からの信頼を示すひとつの指標ではありますが、多数のアソシエイトを使って手を広げるほどに、「完璧な仕事」からは遠ざかり、「致命的ではないミス」を受け入れなければならない姿勢にもつながります。売上げ重視が進む中においても、「レインメーカー」だけでなく、所内で「エクセレント・ロイヤー」を育て、かつ、肩身が狭くなるようなことなく、自由に仕事ができる環境を確保することが、事務所のブランド力維持に必要なものである(それが未来のエクセレント・ロイヤーとなる優秀なアソシエイトの勤労意欲の保持にもつながる)との認識が忘れられないことが期待されます。

以上

 

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