日本企業のための国際仲裁対策
森・濱田松本法律事務所
弁護士(日本及びニューヨーク州)
関 戸 麦
第61回 仲裁判断後の手続(5)-仲裁判断の承認・執行その1
2. 仲裁判断の承認・執行
(1) 意義
今回から、仲裁判断の承認・執行について解説する。
最初に概念の整理であるが、「承認」と「執行」は、併記されることが多いものの、概念としては別である。まず、「承認」とは、仲裁判断の拘束力が認められることである。いわゆるニューヨーク条約(外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約)は、締約国に対し、一定の条件の下に、仲裁判断を拘束力のあるものとして承認することを義務づけている(3条)。また、日本の仲裁法は、一定の承認拒絶事由がない限り、仲裁判断が確定判決と同一の効力を有すると定めている(45条1項、2項)。この日本の仲裁法の定めは、特段の手続をとることなく仲裁判断が「承認」されるという、自動承認を定めるものである。仲裁判断が下された時点で、この自動承認の効力が生じる。
一方、「執行」は、仲裁判断に基づく強制執行を意味する。仲裁判断の多くは任意に履行されるものの、任意の履行がない場合には、強制執行により履行を実現する必要が生じる。かかる強制執行は、裁判所を通じて行う必要がある。この点に関する日本の仲裁法の定めは、まず、仲裁判断に基づいて民事執行をしようとする当事者が、①裁判所に対して執行決定(仲裁判断に基づく民事執行を許す旨の決定)を申し立て、②この決定を得た上で、③強制執行の対象を特定し(差押えの対象となる不動産や預金を特定するなどし)、④裁判所に民事執行の申し立てを行うというものである(仲裁法45条1項但書、46条1項、民事執行法22条6号の2参照)。
なお、仲裁判断の「承認」と「執行」に関する上記の日本法の定めは、外国の裁判所による判決の「承認」と「執行」に関する定めと基本的に同じである[1]。
(2) 承認・執行の対象となる仲裁判断
第54回の7(1)項で述べたとおり、仲裁判断には、最終判断(final award)と、一部判断(partial award、interim award)の区分があり、また、同意判断(consent award)、欠席判断(default award)、追加判断(additional award)という区分もある。このいずれも、承認・執行の対象となり得る。
但し、「執行」の対象となるには、仲裁判断に、例えば金銭の支払、物の引渡、行為の差止等の、強制執行の対象となる内容が含まれる必要がある。これに対し、権利関係を確認する内容の仲裁判断の場合、裁判所による確認判決に基づき強制執行が行えないことと同様に、当該仲裁判断に基づく強制執行を行うことはできない。
また、仲裁廷による判断ないし決定には、暫定・保全措置もあるところ、これらは最終的な判断ではないため、第40回の3(4)項において述べたとおり、承認・執行の対象にはならないと解されている。緊急仲裁人による判断についても、第41回の4(7)において述べたとおり、承認・執行の対象にはならないと解されている。
なお、仲裁廷による判断ないし決定には、仲裁手続のスケジュールに関する命令(Procedural Order)等があるが、このような手続的なものも承認・執行の対象ではない。
(3) 管轄裁判所
前記(1)のとおり、日本の仲裁法上、仲裁判断の「承認」については、特段の手続は不要であるが、「執行」については、執行決定の申立と、その後の民事執行の申立という、裁判所における二つの別個の手続が必要である。
前者の執行決定の申し立てについて、管轄裁判所となるの裁判所としては、①当事者が合意により定めた地方裁判所、②仲裁地を管轄する地方裁判所、③仲裁判断の執行決定申立の被申立人の住所等を管轄する地方裁判所がある。ここまでは、第57回の1(2)項において述べた、仲裁判断取消の申立の管轄裁判所と同様である。執行決定の場合には、これに加えて、④請求の目的又は差し押さえることができる債務者の財産所在地を管轄する地方裁判所も、管轄裁判所となる(仲裁法46条4項)。
一方、後者の民事執行の申立については、管轄裁判所となるのは、基本的に対象となる財産の所在地である(民事執行法44条1項、144条1項参照)。
以 上
[1] 外国の裁判所の確定判決については、民事訴訟法118条が、同条所定の要件を全て具備する場合に限りその効力を有すると定めているところ、これは、当該要件を満たす限り、当然にその効力を「承認」するものであり、「承認」のための特別の手続を要しないとされている(近藤昌昭ほか『仲裁法コンメンタール』(商事法務、2003)263頁)。すなわち、外国の裁判所の確定判決についても、仲裁判断同様、自動承認が認められている。
また、「執行」については、外国の裁判所の確定判決に基づいて民事執行をしようとする当事者が、①裁判所に対して執行判決を求める訴えを提起し、②この判決を得た上で、③強制執行の対象を特定し(差押えの対象となる不動産や預金を特定するなどし)、④裁判所に民事執行の申し立てを行うというものである(民事執行法22条6号、24条参照)。