◇SH3975◇ベトナム:職場におけるジェンダー平等 澤山啓伍(2022/04/18)

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ベトナム:職場におけるジェンダー平等

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 澤 山 啓 伍

 

 ベトナム政府は、ジェンダー平等に関する2つの基本的なILO条約(男女労働者に対する同一報酬に関する条約(第100号)及び雇用・職業についての差別待遇に関する条約(第111号)を1997年に批准しているが、特に最近、女性労働者保護の強化や男女定年格差の縮小など、労働分野におけるジェンダー平等の実現を促進する姿勢を示している。ベトナムでの女性労働参加率は70.9%となっており、世界平均の47.2%、アジア太平洋地域平均の43.9%をはるかに上回っているが、世界的な流れもあり、職場におけるジェンダー平等は今後ますます重要な課題になっていくので、今回は、企業の方に知っておくべき、ベトナムの法令上の職場におけるジェンダー平等の基本的な規定を紹介する。

 

 ベトナムでは、ジェンダー平等の理念は憲法第26条で定められており、また、ジェンダー平等法(法73/2006/QH11号)において、労働分野におけるジェンダー平等を確保するという原則が定められている。また、現行の労働法第4条第7項では、労働分野におけるジェンダー平等の確保が国家の労働に関する政策の一つであると規定されており、職場における男女での雇用機会・賃金等の不公平・不平等の制限及び女性労働者の地位向上を図るために、使用者に対して、以下のように、職場における男女の平等を確保することが義務付けられている。

<男女同一賃金支払義務>

 第90条 賃金

 3 使用者は、同じ価値を有する業務に従事する労働者に対し、平等な賃金を払うこと、性別で差別しないことを保障しなければならない。

 

<職場でのジェンダー平等確保の努力義務>

 第136 条 使用者の責任

 1 採用、業務の配置、調整、訓練、労働時間、休憩時間、賃金その他の制度におけるジェンダー平等及びジェンダー平等の促進措置を実施することを保障する。

 

<女性の地位向上>

 第136 条 使用者の責任

 2 女性の権利・利益に関する問題について決定するにあたり、女性労働者又はその代表者 の意見を参考にする。

 

 その他、女性労働者が働きやすい環境を作るために、生理・育児のための休憩や妊婦への配慮措置等、女性労働者への待遇に関する規定が定められており、加えて、セクシャル・ハラスメントの定義・違反行為・内部処理手続等に関する内部規則の制定が義務化されている。これらについては、本講座第107回及び第115回にて解説しているので、併せて参照されたい。

 

 労働法では、職場におけるジェンダー平等の違反があった場合の制裁については必ずしも明確に規定されていないが、ジェンダー平等法では、各分野におけるジェンダー平等の違反行為が規定されており、その中に、以下を労働分野の違反行為として列挙している(ジェンダー平等法第40条第3項)。

  1. ① ジェンダー平等を推進する目的で行う場合を除き、同一の価値を持った仕事に対して男女間で異なる採用条件を適用すること。
  2. ② 妊娠、出産又は育児等の理由で、雇用機会を制限し又は採用を拒否し、労働者を解雇し又は労働契約を終了すること。
  3. ③ 仕事の割り当てにおいて、男女所得格差につながること、又は性別を理由として同一資格と能力を持つ労働者に異なる賃金を適用すること。
  4. ④ 労働に関する法令に定める女性労働者への優遇措置を実施しないこと。

 このほか、ジェンダー平等法及び労働分野等の行政違反処罰に関する政府政令第12/2022/ND-CP号(以下「政令12号」)では、以下の行為を行った使用者に過料を課すと規定しているので、これらの違反が発生しないよう留意する必要がある。

 

違反行為 過料 (※いずれも個人である使用者に対する過料であり、法人である使用者の場合はその2倍となる)
ジェンダーの古い固定観念に従って職業・職場を選択するように他人を教唆する行為 当局による警告 (ジェンダー平等の分野における行政違反処罰に関する政府政令第125/2021/ND-CP号(以下「政令125号」第8条1条)
労働安全衛生の確保において性差別を行う行為 1,000万~1,500万ドン(政令125号第8条2条a号)  
ジェンダーの固定観念を理由に、他人に職業・職場を選択するように強制し又は禁止する行為 1,000万~1,500万ドン(政令125号第8条2条b号)  
仕事配置における性差別により男女賃金格差につながる行為 1,000万~1,500万ドン(政令125号第8条2条c号)  
性別を理由にして労働者の雇用を拒否し又は制限する行為 1,000万~1,500万ドン(政令125号第8条2条d号)  
性差別的な規則や規制を策定し、実施する行為 2,000万~3,000万ドン(政令125号第8条3条)  
男女間で、同一の価値を持った仕事に対して同一の賃金を支払わない行為 500万~1,000万ドン(政令12号第17条1項dd号)  
採用、業務の配置、調整、訓練、労働時間、休憩時間、賃金その他の制度におけるジェンダー平等及びジェンダー平等の促進措置の実施を確保しなかった行為 500万~1,000万ドン(政令12号第28条1項a号)
女性労働者の権利と利益に関連する問題を決定する際に、それについて女性労働者又はその代表者に相談しなかった行為 500万~1,000万ドン(政令12号第28条1項b号)
生理・育児のための休憩や妊婦配慮措置等女性労働者への優遇措置を実施しない行為 1,000万~2,000万ドン(政令12号第28条2項)

 

以 上

 


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(さわやま・けいご)

2004年 東京大学法学部卒業。 2005年 弁護士登録(第一東京弁護士会)。 2011年 Harvard Law School卒業(LL.M.)。 2011年~2014年3月 アレンズ法律事務所ハノイオフィスに出向。 2014年5月~2015年3月 長島・大野・常松法律事務所 シンガポール・オフィス勤務 2015年4月~ 長島・大野・常松法律事務所ハノイ・オフィス代表。

現在はベトナム・ハノイを拠点とし、ベトナム・フィリピンを中心とする東南アジア各国への日系企業の事業進出や現地企業の買収、既進出企業の現地でのオペレーションに伴う法務アドバイスを行っている。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

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