◇SH1566◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(36)―厳しい状況に陥った運動を救った組織の原点 岩倉秀雄(2017/12/26)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(36)

―厳しい状況に陥った運動を救った組織の原点―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、抽象的で困難性の高い、「『新生・○○』を考えるというテーマに熱心に取り組んだ運動推進事務局員の声を述べた。

 しかし、次の第3ステップ「行動を考える」の議論を始めた頃、事件当事者の工場の関係者が書類送検され、元工場長と法人としての組織が起訴された。そのため、メディアの大々的な事件報道が再燃し、組織は再び社会的非難を浴び、第3ステップの討議は沈滞に向かった。

 今回から複数回に分けて、厳しい状況下で出発した運動の第3ステップ「行動を考える」と、それを救った組織の原点について述べる。

 

【厳しい状況に陥った運動を救った組織の原点】

 上述のように、第3ステップ「行動を考える」の議論を始めた頃の組織成員は、意気消沈した。

 運動推進本部事務局長の筆者は、全国の現場推進リーダーから、「報道により回復しかけた組織の信頼と職員のモチベーションが失われつつある。ステークホルダー(酪農家、農協、スーパー、生協、消費者、地域住民等)の反応も厳しくなっている。どうしたら良いか。」という相談を多数受けた。

 今回のように、組織革新運動を推進する場合、時間がかかるだけではなく、必ずと言って良いほど移行過程で問題が発生する。運動推進の実務責任者は、それを想定して組織革新運動に取り組む必要がある。

 筆者は、組織設立の原点に返り、組織が行ってきた社会的役割を再確認することが、組織成員が誇りと希望を取り戻し前に進むきっかけになると考えた。

 そこで、事件を機に分社化した乳業生産各社に設置した評議会の1つである関東「評議会」[1]の委員長(当時生活クラブ事業連合会長)に依頼し、「情報公開と消費者の信頼」のテーマの講演を実施(会長以下役職員百余名が参加)し、講演要旨を運動機関誌第1面に「本質を問い直していこう」とタイトルをうって掲載、全国のステークホルダーに配布した。

 同委員長の講演は、情報公開と生産者・消費者の連携の重要性について、消費者団体と生産者団体が牛乳の共同購入を開始した当時に遡って述べたものだった[2]。出席者は、「組織の原点が何だったのか、当時の組織の社会的役割は何だったのか、そのためにどんな事業をどう行ったのか」を、共に事業を始めたパートナーから教えられた。

 講演の出席者や運動ニュースを読んだ全国の成員から、「改めて組織の原点は何だったのか、組織はこの事件を契機にどう生まれ変わり、何をしなければならないか」を考えさせられ、「非常に感銘を受けた」という声が多数、筆者に寄せられた。

 第3ステップの「行動を考える」の職場討議は、これを契機に再び盛り上がった。

 次回は、運動の第3ステップ「行動を考える」の職場討議結果について述べる。



[1] 「牛乳不正表示事件」を契機に、乳業の生産部門を関東、関西、東北、新潟(北日本)の4社に分社化した。その時、筆者は、事件の発生原因が閉鎖的な組織風土に原因の一端があると考え、各社に生産者代表、消費者代表、流通代表、学識経験者による評議会を設け、組織外の第3者的視点で酪農、乳業、製造、製品に関する意見・提言を行う仕組みを設置した。

[2] 講演の要旨は、次の通り。委員長の属する消費者組織が発足したころ日本の牛乳は加工乳が大部分で、各地には「まともな牛乳を飲みたい」という牛乳の共同購入グループがあった。委員長の消費者組織は酪農連合会と協力して牛乳の共同購入を始めた。当時、牛乳市場は大手3大メーカーが中心で、町の牛乳屋からは「聞いたことのないブランドの牛乳を飲むと腹痛を起こすぞ」と脅された。これを聞いて共同購入を辞める主婦も出たが、「商売敵が競合を良く言うわけがない」と考え、辞めない人もいた。そこで、牛乳の勉強を始めて「牛乳はブランドではなく中身だ」とわかり、組織の取扱量はどんどん増えていった。(中略)今回、世間の関心は、誰が、いつ、何をしたかにあるが、問題は一つの結果が起きた時、その組織体が自分たち全体の問題だとして、それを捉えるかだ。責任の所在を明らかにして、公開し、自らの非を認める勇気を組織が持つことができるかだ。それができれば、社会的な意味で安心できる関係が生まれる。自らの非を公開していける組織は、優れた社会的存在として信頼を獲得していく。(中略)情報を公開する組織は、信頼度が高くなっていく。(中略)これからは、利益追求は当たり前で過程、人間関係、環境は手段だと考え公害をもたらした「生産の論理」ではなく、安全に豊かに生きようという、「消費の論理」を機能させ、品質管理と価格の因果関係を含めた情報公開を組織の自主性で行うべきである。秩序の構築には、常に本質が問われる。(「新生・○○」ニュースNo.4をもとに筆者が要約)

 

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