社外取締役になる前に読む話(1)
ーその職務と責任ー
潮見坂綜合法律事務所
弁護士 渡 邊 肇
I はじめに
例えばあなたが、上場会社の社長をしている友人から、その会社の社外取締役になってくれと頼まれたとしよう。あなたはどうするだろうか。親しい友人から頼まれたことでもあるし、名誉なことでもあるので、請けようかとは思いつつ、さて請けてしまって良いものかどうか、恐らく様々な思いを巡らせるはずである。ただ、あなたが会社法等の法律に詳しく、かつ世間の社外取締役事情に精通しているのであればともかく、請けるか否か考えようにも、その判断の材料そのものがないのが通常だと思われる。また、現在上場会社の社外取締役に就任している方々の中にも、会社との関係に悩んでいる人もおられるだろう。
例えば、社外取締役といっても、一体何をしたら良いのか分からない、株主から代表訴訟を起こされ、個人ではとても払えないだろうと思われる金額の賠償金を支払わざるを得なくなった取締役がいるというようなニュースもある、そういう責任を負わされる心配はないのだろうか。そもそも社外取締役には何が求められ、どんな責任を負っている仕事なのか・・・などなど、様々な疑問をお持ちの方が多いのではないかと想像する。
この連載は、そのような人のためのものである。
筆者は現在、東証一部上場企業3社で社外監査役を務めており、既に退任した会社も含めると、これまでの社外監査役として在任していた期間は10年以上になる。その期間、いわば客観的立場で、社外取締役と会社との関係について様々な実例を見聞し、また自ら経験もしてきた。筆者が社外監査役を務める会社では、社外取締役の方々はどなたも自由に忌憚のない意見を述べておられるが、時として、もっと会社の抱える諸々の問題に対し、より詳細な情報が提供されれば、より突っ込んだ意見を述べることができるのにと思うこともあるし、会社の規定方針に対し、反対の意見を述べたいのだが、それは可能なのかという悩みを抱えておられた社外取締役の方もおられた。また逆に会社に対し、社外取締役が持っている知見と経験をより活用するために採るべき対策があるのではないか、と感じることもある。
この連載では、筆者のそのような経験をもとに、会社は社外取締役に何を求めているのか、その会社からの要望に対し、十分に答えていくために社外取締役は何に留意し、逆に会社に対し、何を求めていけば良いのか、また何を求めてはいけないのか、等々のテーマにつき、実例を紹介しつつ、抽象的な会社法の条文の解説を超えて、実務的な問題点をご指摘申し上げていきたい。また、実例をご紹介する中で、会社法上、社外取締役が会社に対してどのような義務を負い、どのような場合に責任を問われることになるのかについても適宜解説していきたいと考えている。
それらの検討を通じ、これから社外取締役になろうという方の疑問に少しでも答えることができれば、筆者として望外の幸せである。