ベトナム:ベトナムの裁判制度及び判例の紹介(1)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 澤 山 啓 伍
弁護士 小 谷 磨 衣
ベトナムで事業を行う日系企業が紛争に巻き込まれる場合、当事者の話合いによる解決の他には、ベトナム国内裁判、ベトナム国内仲裁・調停、ベトナム国外の裁判の確定判決の執行、仲裁判断の執行等の紛争解決手段が考えられる。本稿では(1)~(3)に分けて、ベトナム国内の裁判制度、特に、近年導入された判例制度について概観し、判例制度の下で制定、公布された判例の一例をご紹介する。
1.ベトナムの裁判制度
社会主義国家であるベトナムでは、国会が国家の最高権力機関であり、憲法、法律及び国会常務委員会令の解釈権は国会常務委員会の権限とされ、裁判所は法の適用を担うとされている。
裁判制度としては二審制を採っているが、確定判決に重大な法律違反が発見された場合には監督審によって判決を破棄する制度が設けられている。当事者は、控訴審判決に異議を申し立てる権限を有さないが、当該権限を有する最高人民裁判所の長官らに対して異議を申し立てる根拠があることを書面で通知することはできる。異議の申立ては、裁判所の判決が法的効力を有した日から3年以内に行うことができ、また、判決が第三者の権利や国の利益を侵害する場合といった一定の場合であれば、申立て期限はさらに2年間延長できる(民事訴訟法第334条)。そのため、当事者が判決の破棄を望まない場合でも、理論的には数年の間判決が破棄されるおそれが残る。第一審の審理機関は各法が定める事件の種類に応じて県級人民裁判所又は省級人民裁判所となる。審理機関の関係は以下のとおりである。
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* 2015年制定の現行民事訴訟法により新設。2004年制定の民事訴訟法(2011年改正)においては最高人民裁判所専門法廷が対応する。県級人民裁判所又は省級人民裁判所の第一審判決が確定した場合の監督審を審理する権限も有する。
なお、上のチャートには含めていないが、ベトナムでは民事訴訟においても再審手続がある。すなわち、確定判決は、判決の言い渡し後に、裁判所又は当事者によって判決の内容を実質的に変える可能性がある新しい事実関係が発見された場合、再審手続によって再審理されることがある(民事訴訟法第351条)。
第一審は、原則として裁判官1名及び人民参審員2名の合議体による審理が行われるが、審理の長期化、コストの増大が問題視されている。現行の民事訴訟法においては、事実関係が明らかである一定の事件については簡易手続により裁判官単独の裁判を実施することができる。
((2)につづく)