◇SH1558◇社外取締役になる前に読む話(3)――会社との良好な関係を築くにはどうしたらよいのか 渡邊 肇(2017/12/20)

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社外取締役になる前に読む話(3)

ーその職務と責任ー

潮見坂綜合法律事務所

弁護士 渡 邊   肇

 

III 会社との良好な関係を築くにはどうしたらよいのか

ワタナベさんの疑問その2

 社外取締役に就任して半年経過したが、取締役会での自分のコメントに対し、社長を始め、他の取締役も、時として戸惑ったような表情を浮かべており、自分も困惑することがある。

 一体自分のコメントの何がおかしいのだろうか。

 会社との関係につき、どのようなスタンスを採ったら良いのだろうか。

 

解説

 社外取締役に求められている役割は、端的に言えば、「企業価値の向上」に尽きる。しかしながら、前回解説したように、我が国の社外取締役導入のための会社法改正及びコーポレートガバナンス・コードの制定は、安倍政権の経済成長戦略の目玉の一つであった「日本再興戦略」及びその改訂版である「日本再興戦略改訂2014」に列挙された施策の一環として早急に整備され、導入されたものであって、社外取締役の導入・推進を目的とした会社法の改正からはまだ2年あまり、しかも更に厳しい員数要件を設定したコーポレートガバナンス・コードの制定からは僅か1年しか経過していない。要するに、我が国における社外取締役制度は、まだその緒に就いたばかりなのであり、従前から積極的に社外取締役を取締役に加えてきた一部の会社を除き、平成27年の会社法改正により社外取締役設置に踏み切った多くの会社にとっては、複数名の社外取締役を取締役会に迎え入れてから漸く1年が経過したに過ぎない。多年にわたり、社外取締役という部外者を取締役会構成員として迎え入れた経験を一切持たず、一社員として入社した会社で昇進を重ね、取締役となった者のみで構成された取締役会で会社の意思決定を行ってきた会社にとっては、いきなり取締役会に入ってきたそのような部外者を「企業価値の向上」のために「活用」しろと言われても、まず困惑が先に立つ、というのがむしろ自然であろう。社外取締役とどのように向き合い、どのように「活用」したら良いのか、どの企業も暗中模索しているといわざるを得ないのが現状であろうと思われる。ワタナベさんは、そのような会社に「企業価値の向上」という目的に貢献するために迎えられていることをまず自覚すべきである。

 では、ワタナベさんはどのようにして会社との良好な関係を構築し、社外取締役としての信頼を獲得したら良いのだろうか。社外取締役は、会社との利害関係を離れ、独立した客観的立場で、忌憚のない意見を開陳することが期待されている以上、その他取締役、特に業務執行を担当する取締役との間では、必然的に一定の緊張関係が存在することは否定できない。また、社外取締役に求められる役割が、「企業価値の向上」にある以上、そのような緊張関係を排除するために発言を遠慮するようなことがあってはならないことも当然である。そのような状況下で、会社との信頼関係を構築するためには、どのような点に留意し、どのように行為したら良いのだろうか。

 まずは上記のとおり、社外取締役をどのように活用するかという課題の解決は、会社にとっても、まだまだ試行錯誤の段階であることを自覚すべきである。その上で、社外取締役に付与された権限と義務を理解し、その役割および職務を確実に果たすことが求められる。その結果として、取締役の誰もが社外取締役の発言に裏打ちされた経験と知見に敬意を払い、その発言の重みや会社にとっての価値を実感できるようになれば、会社や各取締役との信頼関係も徐々に構築されていくはずである。

 これまで社外取締役がいなかった会社にあっては、取締役会における議案は、取締役会開催時においては既に規定方針として了解されているという状況が通例化していた会社も多かったはずである。そのような会社にあっては、取締役会において当該規定方針に敢えて異論を唱える取締役などいなかったであろう。そのような会社において、社外取締役が、「波風を立てる」ことを恐れ、これまでの慣行に従い、会社の方針が自らの経験と知見に反していたとしても、それに対して何の異論も唱えずに漫然と議案に賛成していても、それで社外取締役の職務を十全に果たしたということはできないであろうし、そのような社外取締役と会社との間で信頼関係が構築されたと評価することはできないと思われる。

 では、社外取締役の職務とは具体的にどのようなものなのだろうか。社外取締役は何ができて何ができないのか、次回以降、その点を検討していこう。

 

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