◇SH3517◇タイ:タイにおけるSDGs関連法案・温暖化対策関連法案の現状 箕輪俊介(2021/03/08)

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タイ:タイにおけるSDGs関連法案・温暖化対策関連法案の現状

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 箕 輪 俊 介

 

 昨年からの新型コロナウィルスの流行も相まって、地球温暖化に対する課題意識や限りある資源を持続可能な形で利用することへの社会的な関心は世界規模で急速に高まっているが、このことはタイも例外ではない。タイでは数年前から乾季における大気汚染が深刻化している実情もあり、温暖化対策や持続可能性を標榜した政策が近年いくつも検討されている。これらについて代表的なものを本稿にて紹介したい。

 

気候変動法案の検討状況

 現在、タイでは気候変動対策として、気候変動法の法案が審議中である。今後の審議により内容が大きく変わる可能性があるが、現在の法案を確認する限り、同法にて以下の内容を規定することが予定されている。

 

  1. (1)温室効果ガス排出に関連する情報の当局報告
  2.   製造業(工場ライセンスを取得して工場を稼働している事業)や発電事業等、温室効果ガスの排出が比較的多いものと想定される事業の事業者らに対して、本法に基づき、温室効果ガス排出に関連する情報(排出量や削減量等)について、管轄当局に報告する義務を課すことが予定されている。
  3.  
  4. (2)助成金の付与
  5.   温室効果ガス排出の削減に寄与する等、一定の要件を充たした事業に対しては現在も助成金を付与する仕組みがあるが、本法成立後は本法に基づきかかる助成金が付与することが予定されている。
  6.  
  7. (3)行政罰の適用
  8.   本法に違反する場合は行政罰の対象となることが予定されている。行政罰の内容がどのようなものになるかについてはまだ明らかにされていない。

 上記法案は現在、パブリックヒアリングを行う等、審議の過程にある。まだ審議に時間を要する様相ではあるが、特に製造業等にとっては今後の事業活動にも影響を与えうる重要法案となり得るため、立法に向けての動向については注視されたい。

 

電気自動車(EV)関連事業への恩典の拡充

 温室効果ガスの排出削減を目標に各国が電気自動車(EV)の導入に積極的になっており、このことはタイにおいてもあてはまる。タイでは電気自動車関連事業に対して、過去にもタイ投資委員会(BOI)を通じて投資恩典が付与されていたが、2021年1月に更に投資恩典が拡充された。現行の投資恩典は以下のとおりである。なお、HEV、PHEV、BEVはそれぞれ、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)とバッテリー電気自動車(BEV)を指す。

 

事業概要

恩典の内容

備考

合計投資額が50億バーツ以上のEVの製造 HEV:法人税免除の対象外
PHEV:法人税を3年間免除
BEV:法人税を8年間免除
BEVについては、製造のみならずBEVの研究開発も行う場合、1-3年間、免除期間が延長する可能性がある。
合計投資額が50億バーツ未満のEVの製造 HEV:法人税免除の対象外
PHEV:法人税を3年間免除
BEV:法人税を3年間免除
2022年までに生産を開始する場合や主要部品を追加製造する場合には、1-3年間、免除期間が延長する可能性がある。
BEVについては、3年以内に1万台以上生産する場合や製造のみならず研究開発を行う場合には、1-3年間免除期間が延長する可能性がある。
EV部品・構成部品に対する恩典(バッテリー以外) 法人税を8年間免除 高圧ハーネス、減速装置、バッテリー冷却システム、回生ブレーキシステムが今般追加され、現在17の主要部品が対象となっている。
EV用バッテリーの製造 バッテリーパックの組み立ては法人税を5年間免除
バッテリーのモジュール生産やセル生産は法人税を8年間免除
国内で調達ができない原材料や必要資材については2年間輸入時に課される関税が90%減税される。
充電ステーション 法人税を5年間免除 最低40基の充電設備を設置することや、充電設備のうち、最低25%は急速充電器である等の恩典取得にあたっての要件を充足する必要がある。

 

 なお、トゥクトゥクを含めた三輪車が日常的に道路を走っている東南アジアならでは、ではあるが、電気三輪車の製造事業にも投資恩典が認められている。その他、電気二輪車や、電気バス、電気トラック、電気ボートの製造事業にも投資恩典が認められている。

 

 また、電気自動車関連事業に関する物品税における特別減税措置についても現在見直しが検討されているため、この点も動向を注視するべきであると考えられる。

以上

 


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(みのわ・しゅんすけ)

2005年東京大学法学部卒業、2007年一橋大学大学院法学研究科(法科大学院・司法試験合格により)退学。2014 年Duke University School of Law 卒業(LL.M.)、2014 年Ashurst LLP(ロンドン)勤務を経て、2014 年より長島・大野・常松法律事務所バンコク・オフィス勤務。

バンコク赴任前は、中国を中心としたアジア諸国への日本企業の進出支援、並びに、金融法務、銀行法務及び不動産取引を中心に国内外の企業法務全般に従事。現在は、タイ及びその周辺国への日本企業の進出、並びに、在タイ日系企業に関連する法律業務を広く取り扱っている。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

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