実学・企業法務(第111回)
第3章 会社全体で一元的に構築する経営管理の仕組み
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
Ⅴ 全社的な取り組みが必要な「特定目的のテーマ」
Ⅴ-1. 商品・サービスの安全性の確保
3. 安全に関する法制度
商品等の安全を確保するために、さまざまな法令や技術基準等が定められている。企業における業務管理の方法を義務付けている法律(業法等)も多い。
次に、一般消費者の身近にある商品の安全に関する法制度の要点を示す。企業全体が一つになって取り組む必要があることが分かるだろう。
- (注) なお、業界ごとの法制度の詳細については、続編に掲載する。
(1) 商品等の安全を規制する法令(例)
- ・ 食品衛生法、JAS法、食品表示法
- ・ 消費生活用製品安全法(電気機器・ガス器具・その他の一般消費者の生活用製品)
- ・ 電気用品安全法
- ・ 道路運送車両法(自動車、原動機付自転車)
- ・ 医薬品医療機器等法(医薬品、医薬部外品、化粧品、医療器具)
- ・ 化審法(新規化学物質の事前審査、上市後の化学物質の継続的な管理措置、化学物質の性状等(分解性他)に応じた規制及び措置)
(2) 商品ごとに構築されている安全性確保の仕組みの概要(続編で詳述する。)
- 〔医薬品〕 厚生労働省が主管
- 厳しい承認・許可制度と、国家資格等を有する専門家集団で安全性を確保する。
- 1) 医薬品(モノ)を患者に使用することを承認する。
-
2) 生産販売する事業者に管理体制の整備を義務づける。
製造段階の品質管理、製造販売後の安全管理(副作用等) -
3) 国家資格者が取り扱うのが原則。
医師、歯科医師、獣医師、薬剤師、看護師等 -
4) 危害防止措置を義務付ける。
厚生労働大臣が指定する医薬品は、直接の容器(箱、ボトル等)に使用期限を表示
病院・薬局・医師・歯科医師・獣医師・薬剤師等に対して安全性等の情報を提供
事業者による廃棄、回収、販売停止、情報提供、その他必要な措置 -
5) 行政命令等の強制措置を設ける。
立入、廃棄、回収、責任者変更、販売・製造業許可取消等 -
6) 副作用の可能性が残ることを前提に、「医薬品副作用被害救済制度」を設ける。
適正使用にも係わらず重篤な健康被害が生じた者に対して、医療費・年金等を給付
資金は、医薬品製造販売業者(一般拠出金、付加拠出金)及び国(補助金<事務費>)が拠出 - 〔自動車〕 国土交通省が主管
- 型式認証・車検・リコール・保険・社会全体の制度で、安全性と環境保全を確保する。
-
1) 型式認証制度[1]により保安基準に適合すると認められた車のみ、車台番号を打刻[2]して道路を走行できる。
(保安基準)寸法(長、幅、高、最低地上高等)、重量、最小回転半径、エンジン、ブレーキ、座席、座席ベルト、ガラス、排ガス、ライト、方向指示器、警音器、悪臭ガス・有害ガス等、他 - 2) 2年に1回(新車時初回は3年に1回)の車検を義務付ける。
- 3) 設計・製造に問題があり、保安基準に適合しない(又は、そのおそれがある)とメーカーが判断したときは、国土交通大臣に届け出てリコールする。
-
4) 自賠責保険(強制保険)により交通事故被害者を救済する。
(注) 通常、損害賠償金等が自賠責保険金の支払限度額を超える場合に備えて、任意保険を掛ける。 - 5) 車には、ナンバー・プレート(車両番号標)を表示しなければならない[3]。
- 6) 所有・利用に一定の規制(運転免許制度、車庫証明制度、廃車規制)を設ける。
- 7) 一般の道路[4]については行政が責任を持って、①管理・保全等を行う[5]とともに、②標識・信号等を用いて制御する[6]。
- 〔電気器具・ガス器具〕 経済産業省が主管
- 製造(又は輸入)事業者の届出、技術基準・表示・点検・リコール等の制度で、安全性を確保する。
- 1) 事業(製造、輸入)を行う者は大臣に届け出る[7]。
-
2) 製品は、法定の技術基準に適合しなければならない。
経済産業省の技術基準の対象商品(例) 電気用品、ガス用品、液化石油ガス器具、特定製品[8] -
3)技術基準に適合する製品に国の安全マークを表示する。
〔マークの例〕電気用品(PSE)、特定製品(PSC)、LPガス用器具(PSLPG)、都市ガス器具(PSTG) -
4) 長期使用製品の経年劣化による事故を防ぐために、表示・点検の制度を実施。
「長期使用製品安全表示制度[9]」設計標準使用期間を設定して、製品に表示する。
「長期使用製品安全点検制度[10]」設計標準使用期間及び点検期間を設定・表示し、点検制度を実施。 - 5) 事業者は一定の製品事故が発生した場合、消費者庁・経済産業省に報告してリコール等する。基準不適合品等が危険な場合は主務大臣(多くの場合、経済産業大臣)が回収命令を発する[11]。
- 6)消費者庁は報告を受けた重大事故情報を公表する。(事故情報データバンクシステム)
- 〔食 品〕
- 生命・健康を守るための基準・規制を設け、表示・リコール等で、安全性を確保する。
- 1) 行政主導で安全性を確保する。
-
① 内閣府「食品安全委員会」が科学的知見に基づき、客観的・中立的にリスク評価を行う。
添加物・農薬・微生物等の人の健康への影響を、科学的にリスク評価する。 -
② 輸入食品に対して植物検疫・動物検疫を行い、有害物の国内侵入を防ぐ。
近年、輸入量の増加に伴い、輸入届出手続の簡素化・迅速化が図られている。
全量を検査する態勢を構築できず、書類審査・抜き取り検査等を行って対処している。 - ③ HACCP[12]を食品関連業者が導入するよう、厚生労働省が取組み中。
-
④ 食品表示法の基準(品質事項、衛生事項、保険事項)等に基づいて食品(容器等)に表示する。
i) 基準を設け、これに適合する食品に「適合マーク」を付して安全性を表示する。
〔マークの例〕JAS、特定保健用食品(トクホ)、特別用途食品(乳児、幼児、妊産婦他用)
ii) 内閣総理大臣(消費者庁が実務)が「食品表示基準」を定め、事業者がこれに基づいて表示。
〔表示要素の例〕アレルゲン、保存方法、消費期限、原材料、添加物、栄養成分の量・熱量
iii) 原則として全ての加工食品[13]に「消費期限」又は「賞味期限」を表示する。 -
⑤ 保健所が食品等事業者の営業許認可・立入・監視・検査・食中毒調査等を行う。
全国の約500か所に保健所が設置されている[14]。 -
2) 材料(農水産物)、生産・加工、流通(運送、倉庫)、販売、消費者(電気冷蔵庫等)の各段階において、安全性を確保する必要がある。
(注) 事故原因の究明には、多段階を通じて把握できるトレーサビリティを確保することが重要。 -
3) 安全基準に違反した食品はリコール(大半は自主リコール)して回収・廃棄する。
法定基準違反の食品は、厚生労働大臣又は都道府県知事等が回収・廃棄等を命じることができる。
[1] 一般に、量産される乗用車では型式指定制度(基準適合性審査と品質管理<均一性>審査。現車提示省略)、大型トラック・バス等では新型届出制度(基準適合性審査。現車による検査)が利用される。
[2] 事故等で損傷を受けにくいエンジンルーム奥の車の骨格部等に打刻する。
[3] 道路運送車両法73条、同法施行規則7条
[4] 道路関係4公団の民営化に伴なって2004年に高速道路株式会社法が制定され、2005年に高速道路6社(東日本、首都、中日本、西日本、阪神、本州四国連絡)が設立された。なお、同法は、政府等が常時3分の1以上の議決権を保有し(3条)、国土交通大臣が監督等すべきこと(15~17条)を定めている。
[5] 道路法は、高速自動車国道、一般国道、都道府県道、市町村道の4種類に分けて実施事項を定めている。
[6] 道路交通法は、道路における危険防止、交通の安全・円滑、交通起因の障害の防止に資することを目的とする。
[7] 電気用品安全法3条、消費生活用製品安全法6条
[8] 乳幼児用ベッド、浴槽用温水循環器、ライター、家庭用の圧力なべ及び圧力がま、石油ストーブ他
[9] 5品目(扇風機、エアコン、換気扇、洗濯機、ブラウン管TV)
[10] 9品目(屋内式ガス瞬間湯沸器<都市ガス、LPガス>、屋内式ガスバーナー付風呂釜<都市ガス、LPガス>、石油給湯器、石油風呂釜、FF式石油温風暖房機、ビルトイン式電気食器洗機、浴室用電気乾燥機)
[11] 消費生活用製品安全法39条1項
[12] Hazard Analysis and Critical Control Pointの略(危害要因分析重要管理点)。1960年代に米国で宇宙食の安全確保のために開発された食品衛生管理システムで、後に、国連(Codex委員会)が推奨して食品衛生管理の国際基準になっている。
[13] (例)「塩蔵・塩干魚介類、乾燥した野菜、果実、魚介類、海そう類等」が「業者間で取引される場合」は、表示義務が無い。
[14] 47都道府県、69保健所設置市、23特別区に設置。