◇SH1618◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(43)―移行過程のマネジメント③「対立」 岩倉秀雄(2018/02/02)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(43)

―移行過程のマネジメント③「対立」―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、「抵抗」のマネジメントと「混乱」の発生原因とマネジメントについて考察した。

 変化に対する「抵抗」へのマネジメントでは、①現状と望ましい姿とのギャップを正確に伝え認識を一致させること、②変化の影響を受ける人を変化の過程に参加させること、③望ましい行動に報酬を与え変化を促進すること、④情理を尽くした説得と納得するまでの時間的余裕を与えること、⑤教育・訓練を徹底して移行への不安をなくすことが、必要である。

 「混乱」は、組織内の秩序が失われ一時的な「流動状態」が発生するために生まれることから、そのマネジメントには組織統制力の維持・強化が重要であり、①組織の将来への明確なビジョンと将来の確固とした到達点を示す、②移行担当者とそれ以外のメンバーとの間で密接なコミュニケーションを確保する、③当初予想しなかった問題が発生した場合に直ちに対応することが必要である。

 今回は、移行過程における「対立」の発生原因とそのマネジメントについて考察する。

 

【移行過程のマネジメント③「対立」】

1.「対立」の発生原因

 既述したように、組織とは、協働の場であると同時にパワーを求めて競い合う「駆け引きの場」でもある。また、組織に参加する者の意図は必ずしも同一ではない。

 通常時にも、組織内にグループ間(製造と販売、研究と管理、ラインとスタッフ等)の政治的駆け引きが存在するが、移行期になると各グループ間のパワーバランスが崩れ、通常時よりも駆け引きが活発化する。

 極端なセクショナリズムが発生すれば、情報の隠蔽、囲い込み、他部門への非協力などにより、自部門だけが優位に立とうとする。

 組織の成員は、進行中の革新が既存の力関係にどのような変化を与えるのか、移行期の組織の中でいかなる立場を獲得し得るかを予想しつつ、政治的行動を展開し始める。

 そのため、ときには革新により不利益を被ると解釈する集団が、革新を阻害する行動に出る恐れがある。

 したがって、革新を行う者(経営者や移行管理者)は、組織内のグループ間の「対立」をマネジメントできなければ革新を完遂できない。

 

2.「対立」のマネジメント

 革新が成功するためには組織内の大多数から積極的な支持を得なければならないが、対立する下位集団が存在する場合には、そのことを踏まえた対立のマネジメントが以下の通り必要になる。[1]

  1. ⑴ 移行に反対する集団に対しては、革新を中途半端に終わらせないために、妥協することなく、会議など公式の場でできるだけ反対意見を提出させ、十分に議論を戦わせて論破する。場合によっては、退出するのもやむを得ない。(これは、筆者の経験に基づく見解であり、稲葉・前掲注[1] 156頁の「取引する」との見解とは異なる。)それでも反対する場合には、反対者を異動させる等により、組織決定の重要性を組織成員に明確に知らせる。[2]
     
  2. ⑵ 各集団のリーダーの役割行動を利用する。各リーダーの行動を通じて組織内に革新のエネルギーを作り出す。ここでは、各リーダーが率先して影響下の集団を鼓吹し行動の方向を示すことに期待するのである。
     この場合、各リーダーに深刻な「対立」があってはならない。
     「対立」ではなく「協調」行動ができるような状況を生み出すためには、集団間の「協調」が現在の問題を超えて成果を生み出し、それが将来的に拡大・発展するという確信を持たせ協働の意欲を喚起することが重要である。
     また、外部からの圧力に各集団の注意を向ける方法もある。すなわち、外部に「共通の敵」を作ることである。
     前者では、情報の相互開示や非公式コミュニケーションによる相互信頼関係の形成が必要である。後者では、激しく変化する外部環境やステークホルダーからの圧力等が、内部対立を超えて革新を実現する必要があるという共通認識を生み、革新を実現することになる。

 

 以上、組織行動論の「移行過程のマネジメント」により、「革新を阻むものの克服」に応用できる一般的な知見を確認した。

 次回からは、それらを踏まえ、コンプライアンス重視の組織文化へ革新するための、具体的な諸問題を踏まえた実施施策について考察する。

 


[1] 稲葉元吉著『コーポレート・ダイナミックス』(白桃書房、2000年)156頁他

[2] 筆者は、ある組織で商品開発とマーケティング分野の大革新を提案・実施しようとした際、革新に納得できないグループから反対を受け、経営者に直訴された経験がある。最終的には、筆者の主張が経営者にも支持され、反対するグループは異動させられた。そして、革新は成功し、部門の売上げは600億円から1000億円に拡大した。仮に、そのまま組織内で反対活動が続き安易に妥協していたら、革新は成功しなかったと思われる。組織の特性や風土にもよるが、実際のビジネスの場では、組織の存続をかけて革新を行う場合には、安易な妥協や取引はできない。

 

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