コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(164)
―日本ミルクコミュニティ㈱のコンプライアンス㊱―
経営倫理実践研究センターフェロー
岩 倉 秀 雄
前回は、危機対応チームの役割について述べた。
危機の対応に当たっては、短時間に大量の仕事を効率的にこなすために、機能別対応チームを組織し、役割を明確にするとともにふさわしい人材を配置しなければならない。
今回は、危機対応時のその他の重要な留意事項について考察する。
【日本ミルクコミュニィティ(株)のコンプライアンス㊱:組織の危機管理⑧】
危機発生時には、記者会見、ステークホルダー対応、インナー対応等、重要な事柄を短時間に同時に実施しなければならない。
本稿では、それらの留意点について後藤[1]と筆者の経験を基に考察する。
1. 記者会見
記者会見は社長やこれに準ずる人をスポークスマンに決め、関連部門の責任者も同席して詳細な説明ができるようにする。
会見は、メディアの要請がある場合には早期に開く必要があるが、自ら開く場合には記事が掲載される時期を想定したタイミングを選ぶことができる。
発表はできるだけ文書と資料を添付し、自社で行う方が記者クラブに所属していない記者も入ることができ、準備もしやすい。
スポークスマンは、「感情的にならない」、「わからないことはわからないとし憶測や希望的観測は言わない」、「責任逃れの発言はしない」、「事態を過小評価せず企業として事態を重視している姿勢を示す」、「ノーコメントやオフレコは言わない」、「会見前に想定問答を準備しメディアトレーニングをしておく」、「行政(警察)のかかわる問題はその結果を第一とした対応を行う」等に留意する。
また、メディアの関心は、「何が、なぜ発生したのか」、「事態の経過と現状」、「これからどうするか」、「事態の組織の受け止め方」、「誰が関与して今どうしているか」、「過去の類似のケース」等にあるので、これに対応できるように準備する。
2. ステークホルダーへの対応
(1) 消費者への対応
欠陥品など消費者に継続的被害をもたらす危険が想定される場合、記者会見、社告、ホームページ、新聞広告、流通への連絡等あらゆる手段を講じて最優先で情報を伝え、必要により店頭から直ちに商品を撤去する。
消費者対応窓口の受付体制は、通常よりも回線を増設して受付人数を増やし、受付時間を延長して対応する。
(2) 被害者への対応
事態が人命にかかわる場合には、原因判明を待たずに、早急に判明情報をすべて被害者の家族に開示・報告する。
現在組織が対応しているすべての対応策について誠意を持って説明をするとともに、必要により専用対応窓口を設ける。
状況により、一定レベル以上の人間による被害者家族への個別対応が必要であるが、人命に影響はないが健康被害が発生している場合には、可能な限り被害者に面談して直接被害状況を把握するとともに、被害の程度と事態との因果関係を確認する。
(3) 流通への対応
早期から継続的に(必要により一定レベル以上の者が訪問)事態の概要や経過情報を伝え、誠意ある対応に心がける。
対応方針・再発防止策などが決まった段階では、役員等一定レベル以上の者が公式文書を持って説明に行く。
同時に、営業による巡回回数の増加、販売店を対象にした緊急会議の実施、業界紙への広告の掲載等さまざまな手段により組織間関係の強化に心がけるとともに、流通現場の生の情報を収集・把握する。
(4) 大株主・金融機関への対応
経営責任者や担当役員が直接対応するケースが多いが、機関投資家への説明ができるように資料等の準備をする。
なお、法上の「重要事実」に該当する場合には情報開示を優先する。
(5) 行政への対応
保健所、警察、消防、監督官庁等への報告は危機発生時の早い段階にただちに行い、必要により相談しながら対応を決める場合もある。
普段からリストを作成し誰がどこに報告するかの役割を決めておくと、危機発生時にはあわてず、漏れなく対応できる。
継続的に報告・連絡を行い、地元、中央、県のすべてに報告する。
(6) 業界への対応
危機の種類により業界全体の信用が傷つき、同業他社へ脅しやクレームが入る場合もある。
その恐れのある場合には、ただちに業界への情報開示を行い、消費者の安全を確保するとともに業界全体への影響を少なくする。
メディアから業界団体に、統一見解を求められる場合もある。
不祥事発生組織が業界の役員を務めている場合には、早期に役員を辞任して業界全体へのマイナスイメージの波及を断ち切る。
3. 事態が継続する場合の対応
当初の想定と異なり次々と新事実が発見される、原因究明が長引き的確な対策を提示できない、関係当局の調査が終了せず処分もはっきりしない、経営者以下組織文化に問題があるとするメディアの批判が続く場合には、全体の流れを見直し、戦略的に対応する必要がある。
- ① 社内体制が不足する場合には、要員や体制を見直し補強する。
- ② 新たな事実が発生した場合には、新たなチームによる対応を行う。
- ③ 組織文化に問題がある場合には類似危機の再発可能性が考えられるので、迅速・ドラスティックな組織文化の革新に取り組みつつ、組織総点検を繰り返す。
- ④ 経済的損失予測を実施しどこまで耐えられるかを検討しておく。
- ⑤ メディアへの情報開示を継続し、新たな事実が明らかになった場合にはすみやかに情報を開示して、組織として誠実に真相究明や消費者の安全・安心を確保するための努力をしている姿に理解を得る。
- ⑥ メディアの取材が経営責任者や危機の責任者に対して行われる場合には、個別取材には応えない。
- ⑦ 風評被害を招く誤報には、自らの対応を点検し、問題があれば改善するとともに、データを基に訂正を求め、必要により訴訟を検討すると同時に、内部に経営トップ名のメッセージを発信し社内の混乱を沈静化する。
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⑧ 欠陥商品等による健康被害、人命への危険が引き続き発生する可能性がある場合、あらゆる手段で消費者にその事実を伝え情報提供する。
被害者へのお見舞いや関連行事への出席、補償問題への対応も継続して実施する。 - ⑨ 取引再開を可能とするための流通情報も引き続き収集・分析しておく。
つづく