◇SH1635◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(45)―やらされ感の克服① 岩倉秀雄(2018/02/09)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(45)

―やらされ感の克服①―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、最近、再び我国の大企業におけるコンプライアンス違反が増加していることから、「革新を阻むもの」を踏まえたコンプライアンス施策の留意点を考察した。

 今回から複数回にわたり、コンプライアンス活動を進める上で組織成員に生まれる「やらされ感」がなぜ生まれ、どうすれば克服できるのかについて考察する。

 

【やらされ感の克服①】

 真にコンプライアンスを強化し組織に浸透させるためには、革新に伴う価値観やパワー関係の転換を克服し、組織文化の革新を実現する必要がある。コンプライアンスの組織文化への浸透は、非常にエネルギーと時間を要する取組みである。

 経営トップの主導やコンプライアンス部門の精力的な努力によって取組みが開始されたとしても、時間の経過とともに次第に活動が「マンネリ化」し、組織の成員に「やらされ感」が広がり、取組みの活力が失われる場合がある。

 また、組織の成員が何らかの理由により組織決定にコミットしていない(できない)場合にも、無理やりやらされるという「やらされ感」が発生する。

 特に、この現象は、「不祥事発生等による世間の圧力をかわすため」などの皮相な理由、あるいは「世間が求めるので形式を整えておく必要がある」等の不純な理由、によりトップダウンで取り組む場合や、外部識者やコンサルタントの力のみに頼り、組織成員の主体的取組みが弱い場合に発生しやすい。

 例えば、経営トップが談合決別宣言をしながら実際には談合を繰り返す業界の例や経営トップがメディアで品質検査不正を謝罪している一方で、現場では引き続き不正を継続していたケース等が記憶に新しい。

 それらは、経営者と現場が一体となってコンプライアンスに取り組んでいないケースであるが、そこでは、現場のコンプライアンス活動に「やらされ感」が発生しているかもしれない。

 本稿では、コンプライアンス定着のための「革新」に取り組む際に直面する「マンネリ化」や「やらされ感」の発生原因や克服方法を考察する。

 

1. マンネリ化とやらされ感の発生原因

 もし、組織の成員が「コンプライアンス強化への取組みは、組織を守り、企業価値を高め、経営を安定させ、自分の成長に役立つものだ」と心の底から思うことができれば、「マンネリ化」や「やらされ感」は発生しない。

 「マンネリ化」や「やらされ感」が発生するのは、組織の成員がそのように受け止めることができない何らかの原因があるからである。

 したがって、本稿では、まず「マンネリ化」と「やらされ感」がなぜ、どのように発生するのかを、組織における個人の心理形成の知見を基に考察し、つづいて、その心理形成の基となる組織の問題点は何か、さらに、それらを踏まえ「マンネリ化」や「やらされ感」を引き起こさずコンプライアンス強化に主体的に取り組むために、組織としてどうあるべきかについて、考察する。

(1)「マンネリ化」や「やらされ感」はなぜ、どのように発生するのか

① 革新そのものへの「抵抗・混乱・対立」が発生する場合

 これまで、本稿ではコンプライアンス強化の取組みにより影響を受ける人々の「抵抗・混乱・対立」を克服するために「移行過程のマネジメント」に留意しなければならないという問題意識の下に、その具体的対応策を考察した。

 本稿では、なぜ「マンネリ化」や「やらされ感」が発生するのかについて、「抵抗・混乱・対立」の組織現象に関連する個人の心理的側面に注目して以下の通り振り返る。

  1. ア 革新に伴う変化によって、組織成員はこれまで組織文化の中で培ってきた「パワー資源」ともいうべき組織内での役割や態度、技能、習慣をアンラーニング(学習棄却)しなければならない。
     その場合、組織の成員は変化に抵抗感を示し革新にコミットできず「やらされ感」が発生する。
  2. イ 革新により組織内の既存の秩序が変化し流動状態が発生する。そのような組織状況では日常業務に対する統制力も失われやすく、組織の目的、構造、要員も変化していく(特に組織合併時には顕著になりやすい)。
     そのため、組織成員はビジョンが見えず情報不足に陥り不安が増大するので、コンプライアンス強化を実施するように指示されても取組みにコミットできず、「やらされ感」が発生する。
  3. ウ 革新を組織内における「駆け引きの場」としてとらえ、組織内の個人やグループが力関係の変化や移行後の立場の獲得を予想して、政治的な行動を展開する。
     コンプライアンス強化の取組みは、組織の社会的適合や経営の安定、個人の成長とは関係なく損得の対象となり、「自分たちの既得権を失わせるので損になる」ととらえる者による取組みへの抵抗や、グループ間の対立が発生する。
     そのような状況では、組織のために自分の役割を果たそうとする組織関与の気持ちや組織の目標や価値を受容し組織と一体化して目標達成しようとする気持ちは減殺され、コンプライアンス強化の取組みが強制されたものであるかのような雰囲気が形成され、「やらされ感」が発生する。

(この考察は、次回につづく。)

 

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