証券監視委、「金融商品取引法における課徴金事例集~不公正取引編~」を公表
--勧告事案を分析、個別事例をわかりやすく紹介--
証券取引等監視委員会は8月29日、「金融商品取引法における課徴金事例集~不公正取引編~」を公表した。
本事例集は、証券監視委が、平成28年6月から平成29年3月までの間に、金融商品取引法違反となる不公正取引に関し勧告を行った事例について、その概要を取りまとめたものである(従来、個別事例は6月から翌年5月までに課徴金納付命令の勧告事例を掲載していたが、今後は年度ベースである4月から翌年3月までの個別事例を掲載することになり、本年度は移行期間として、平成28年6月から平成29年3月に勧告を行った個別事例を掲載している)。
本年度の事例集においては、市場関係者に不公正取引を未然に防止するための参考となるよう、
(1) 勧告事案を分析し、新たに「情報伝達・推奨規制違反に係る勧告の状況」や「重要事実等の決定・発生から公表までの日数」等を追加するとともに、バスケット条項該当性を判断するうえでの参考となる資料を添付
(2) 見やすくするために、1事案を見開きページで掲載するようにしたり、相場操縦事案については株価チャートを追加する
等の工夫を行っている。
証券監視委としては、不公正取引の未然防止という観点から、本書が、
- ① 重要事実の発生源となる上場会社等におけるインサイダー取引管理態勢の一層の充実
- ② 公開買付け等企業再編の当事者からフィナンシャル・アドバイザリー業務等を受託する証券会社・投資銀行等における重要事実等の情報管理の徹底
- ③ 証券市場のゲートキーパーとしての役割を担う証券会社における適正な売買審査の実施
のために役立ててることを期待するとしている。
以下では、本書から、当年度の課徴金勧告の特徴等を紹介する。
1 課徴金勧告の件数および課徴金額
平成28年度は過去最多となる課徴金勧告を51件行った。平成28年度における課徴金勧告の特徴は、以下のとおりである。
○ インサイダー取引
- ・ 上場会社の従業員持株会を介した買付けによるインサイダー取引を初勧告
- ・ 平成24年の金商法改正により新たに定められた、金融商品取引業者等に該当しない者の「自己以外の者の計算」によるインサイダー取引に係る運用対価を課徴金の対象とする規定を初適用
- ・ 情報伝達・取引推奨規制のうち、取引推奨規制違反について初勧告
-
・ 上場会社等の子会社に係るバスケット条項を初適用
○ 相場操縦
- ・ 対当売買の発覚を避けるため、売り注文と買い注文を異なる証券会社から発注していた相場操縦を勧告
- ・ 買い見せ玉と売り見せ玉を組み合わせ、株価の上昇および下落の両局面で利益を得ていた相場操縦を勧告
- ・ 証券会社の自己売買取引において行われた相場操縦を勧告
2 インサイダー取引による課徴金勧告事案の特色
(1) 勧告件数および課徴金額の状況
平成28年度の勧告件数は43件(19事案)であり、前年度の22件(16事案)に比べ大幅に増加し、年度別で過去最高の件数となった。その要因としては、1事案で4件以上の勧告を行ったものが3事案あったことも挙げられる。平成28年度の課徴金額合計は8,979万円となっており、前年度(7,550万円)を上回り、年度別で過去最高の金額となった。平成26年4月に導入された情報伝達・取引推奨規制に違反した者について、前年度の3件(3事案)に引き続き、5件(4事案)の課徴金勧告を行っている(うち、取引推奨行為に係る勧告は、平成28年度が初)。
(2) 重要事実等別の状況
平成28年度の勧告件数(43件)を重要事実等別に分類すると、業務提携15件(重要事実等45件に対して33.3%)、公開買付け10件(同22.2%)、業績修正8件(同17.8%)、新株等発行8件(同17.8%)となっており、業務提携の割合が増加している。
(3) 違反行為者の属性別の状況
違反行為者40名(違反行為者43名に複数の属性を持つ者2名を加え情報伝達・取引推奨規制の違反者5名を除いた数)のうち、会社関係者等が20名(50.0%)、第一次情報受領者が20名(50.0%)となっている。会社関係者等の内訳は、役員1名(会社関係者等20名に対して5.0%)、社員14名(同70.0%)、契約締結者等5名(同25.0%)となっており、社員の割合が大幅に上昇している。第一次情報受領者の内訳は、取引先4名(第一次情報受領者20名に対して20.0%)、親族4名(20.0%)、友人・同僚が10名(50.0%)となっており、引き続き友人・同僚の割合が高くなっている。
(4) 情報伝達者の属性別の状況
情報伝達者20名の内訳をみると、役員6名(30.0%)、社員1名(5.0%)、契約締結者等13名(65.0%)となっている。
3 相場操縦による課徴金勧告事案の特色
(1) 勧告件数および課徴金額の状況
平成28年度の勧告件数は8件であり、前年度の12件から減少したものの、課徴金額では2億8,161万円(平均3,520万円)と、前年度から大幅に増加している。個人に対する課徴金勧告を6件行っているが、個人に対するものとしては過去3番目に高額(1,965万円)の課徴金を課した事案を含め、課徴金額が1,000万円を超える事案が2件あるなど、個人に対する平均課徴金額は増加している。機関投資家による相場操縦行為も引き続き認められており、法人2社(国内1社、海外1社)に対して合計2億3,320万円の課徴金勧告を行っている。
(2) 違反行為の形態
平成28年度の勧告件数(8件)についてみると、①見せ玉5件(41.7%)、②買い上がり買付け等4件(33.3%)、③対当売買3件(25.0%)となっている。近年、相場操縦の手口は一段と悪質・巧妙化してきているが、平成28年度においても、アルゴリズム取引を誘引する事案や、不公正取引の発覚を逃れるため、複数の証券会社の口座を利用して不公正取引を行う事案が認められている。
(3) 違反行為者別の状況
勧告件数(8件)を違反行為者別に分類すると、個人6名(すべて国内)、法人2社(国内1社、海外1社)となっている。
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証券監視委、「金融商品取引法における課徴金事例集~不公正取引編~」の公表について(8月29日)
http://www.fsa.go.jp/sesc/jirei/torichou/20170829.htm