金融庁、スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議(第15回)
岩田合同法律事務所
弁護士 臼 井 幸 治
金融庁は、本年3月13日、同日開催されたスチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議(以下「フォローアップ会議」という。)第15回の議事次第を、同庁ホームページに掲載した。
フォローアップ会議においては、平成29年10月以降、コーポレートガバナンス改革の進捗状況の検証を行ってきたところ、第15回では、いよいよコーポレートガバナンス・コードの改訂を具体的に提言するに至った。提言された改訂版の主な内容と目的は、本稿末尾の①~⑤の通りである(詳細は後記抜粋引用を参照されたい)。
中でも③のCEOの選解任の手続きについては、従前のフォローアップ会議において、現経営者が機能不全である場合における解任、後継経営者の指名及び候補者の育成について、その客観性、透明性、的確性を持続的に担保することが必要であるとされ、また、CEOの選任は、企業の戦略を踏まえ、将来を見据えた透明性あるプロセスに基づくべきであり、独立した指名委員会がCEOの選解任や後継者計画を主導することが重要であるとの意見も出されていたところである。
コーポレートガバナンス・コードの改訂後においては、CEOの選解任の客観性、適時性、透明性を確保する手続きとして、指名委員会の設置・活用が進むことも予想される。
また、④の政策保有株式については、従来より、資本や議決権の空洞化を招き、株主によるガバナンス機能を形骸化させる等の問題点が多く指摘されていたところであるが、従前のフォローアップ会議においては、金融会社の政策保有株式に比して、事業会社間等では縮減が進んでおらず高い水準にあるとの指摘もなされてきた。このような状況下で、個別銘柄の保有の適否検討及び縮減の方向性が明示されたことは特筆すべき点といえよう。
現行の政策保有に関するコード原則1-4については、コンプライしている会社が大勢を占めるものと思われることから、今後、投資家と企業との間で対話が進み、政策保有株式の縮減に向けた動きが進むことが予想される。
平成29年12月8日閣議決定の「新しい経済政策パッケージ」[1]において、「2018年6月の株主総会シーズンまでに」「必要なコーポレートガバナンス・コードの見直しを行う」とされ、コーポレートガバナンス・コードの改訂は、本年度の総会時期における適用が予定されている。今後、今般の提言にしたがい、東京証券取引所において改訂が行われることが見込まれるため、引き続き注視していく必要がある。また、各企業においては、現時点から対応の要否を検討しておくことが望ましい。
<コーポレートガバナンス・コード改訂版の主な内容と目的>
関連する原則 | 内容・目的 | ||
① | 原則5-2 | 内容 | 経営戦略や経営計画の策定・公表にあたって、資本コストを勘案すべきことや事業ポートフォリオの見直しを含める |
目的 | 経営環境の変化に対応した経営判断を行うため | ||
② | 原則5-2 | 内容 | 経営資源の配分等の施策の説明にあたって、設備投資・研究開発投資・人材投資等の判断を含める |
目的 | 企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を実現するため | ||
③ | 原則4-3 | 内容 | CEOの選解任の手続きにおける補充原則の新設等 |
目的 | 経営陣において特に中心的な役割を果たすCEOの選解任・取締役会の機能を発揮させるため | ||
④ | 原則1-4 | 内容 | 開示すべき政策保有株式に関する方針の中に、個別銘柄の保有の適否及び縮減に関する方針を含める |
目的 | 政策保有株式について、投資家と企業との間で、これまで以上に対話を深化させるため | ||
⑤ | 原則2-6 | 内容 | 母体企業による企業年金に関する取り組みについて、新たな原則を設ける |
目的 | 企業年金がアセットオーナーとして期待される役割を実効的に発揮できるようにするため |
本フォローアップ会議(第15回)会議資料1「コーポレートガバナンス・コード改訂案」より抜粋引用
【原則5-2.経営戦略や経営計画の策定・公表】 経営戦略や経営計画の策定・公表に当たっては、自社の資本コストを的確に把握した上で、収益計画や資本政策の基本的な方針を示すとともに、収益力・資本効率等に関する目標を提示し、その実現のために、事業ポートフォリオの見直しや、設備投資・研究開発投資・人材投資等を含む経営資源の配分等に関し具体的に何を実行するのかについて、株主に分かりやすい言葉・論理で明確に説明を行うべきである。 |
【原則4-3.取締役会の役割・責務(3)】 取締役会は、独立した客観的な立場から、経営陣・取締役に対する実効性の高い監督を行うことを主要な役割・責務の一つと捉え、適切に会社の業績等の評価を行い、その評価を経営陣幹部の人事に適切に反映すべきである。 また、取締役会は、適時かつ正確な情報開示が行われるよう監督を行うとともに、内部統制やリスク管理体制を適切に整備すべきである。 更に、取締役会は、経営陣・支配株主等の関連当事者と会社との間に生じ得る利益相反を適切に管理すべきである。 |
- 補充原則
- 4-3②取締役会は、CEOの選解任は、会社における最も重要な戦略的意思決定であることを踏まえ、客観性・適時性・透明性ある手続に従い、十分な時間と資源をかけて、資質を備えたCEOを選任すべきである。
- 4-3③取締役会は、会社の業績等の適切な評価を踏まえ、CEOがその機能を十分発揮していないと認められる場合に、CEOを解任するための客観性・適時性・透明性ある手続を確立すべきである。
【原則1-4.いわゆる政策保有株式】 上場会社がいわゆる政策保有株式として上場株式を保有する場合には、政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針を開示すべきである。また、毎年、取締役会で主要な、個別の政策保有株式についてそのリターンとリスクなどを踏まえた中長期的な経済合理性や将来の見通しを検証し、これを反映した保有のねらい・合理性について具体的な説明を行うべきである。保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証するとともに、そうした検証の内容について開示すべきである。 上場会社は、政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための具体的な基準を策定・開示し、その基準に沿った対応を行うべきである。 |
- 補充原則
- 1-4①上場会社は、自社の株式を政策保有株式として保有している会社(政策保有株主)からその株式の売却等の意向が示された場合には、取引の縮減を示唆することなどにより、売却等を妨げるべきではない。
- 1-4②上場会社は、政策保有株主との間で、取引の経済合理性を十分に検証しないまま取引を継続するなど、会社や株主共同の利益を害するような取引を行うべきではない。
【原則2-6.企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮】 上場会社は、企業年金の積立金の運用が、従業員の安定的な資産形成に加えて自らの財政状態にも影響を与えることを踏まえ、企業年金が運用(運用機関に対するモニタリングなどのスチュワードシップ活動を含む)の専門性を高めてアセットオーナーとして期待される機能を発揮できるよう、運用に当たる適切な資質を持った人材の計画的な登用・配置などの人事面や運営面における取組みを行うとともに、そうした取組みの内容を開示すべきである。その際、上場会社は、企業年金の受益者と会社との間に生じ得る利益相反が適切に管理されるようにすべきである。 |
以上