国交省、「自動運転における損害賠償責任に関する研究会」の報告書を公表
岩田合同法律事務所
弁護士 工 藤 良 平
国土交通省は、平成30年3月20日、「自動運転における損害賠償責任に関する研究会」(第6回・最終回)の報告書(以下「本報告書」という)を公表した。
「自動運転」とは、従来人間の行っていた自動車の運転操作の一部又は全部が、人工知能(AI)を核とする自動運転システムによって行われる状態をいう。自動車に関する技術者や業界関係者で構成されるSAE Internationalでは、別表のとおり、自動運転システムが運転タスクを代替する度合に従って、自動運転のレベルは6段階に分類されており、本報告書もこの分類を採用している。なお、本報告書では、レベル3以上の自動運転システムが「高度自動運転システム」、レベル4及び5の自動運転システムが「完全自動運転システム」と定義されている。
本報告書では、2020~25年頃における、高度自動運転システムの導入初期段階から完全自動運転システム普及への「過渡期」を想定し、特にレベル3と4の自動運転システム利用中の事故に関し、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という)に基づく損害賠償の在り方についての検討結果が公表されている。
現行の自賠法は、自動車事故を発生させた自動車所有者等の「運行供用者」に対し、事実上の無過失責任を負担させている。すなわち、自賠法3条において、運行供用者は、①自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと、②被害者又は運転者以外の第三者に故意過失があったこと、並びに、③自動車に構造上の欠陥又は機能障害がなかったこと、といういわゆる「免責3要件」の立証に成功しない限り、被害者に対する損害賠償責任を負うものとされているところ、実際にこれらすべての要件事実を立証することはほぼ不可能であると考えられている。
本報告書では、自動車の運転操作の大部分又は全部が人間である「運転者」ではなく「自動運転システム」側によって担われており、運転者の過失なくして自動運転システムの欠陥等による事故が発生した場合にも、現行自賠法における従来の運用のとおり、運行供用者に事実上の無過失責任を負担させるという制度を維持することが可能かつ適切かといった視点から、自動運転車と自動運転ではない自動車が混在する「過渡期」における法制度の在り方の方向性が提示されている。本報告書における具体的な論点及び検討結果は、以下の表を参照されたい。
論点1:自動運転システム利用中の事故における自賠法の「運行供用者責任」をどのように考えるか。 |
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論点2:ハッキングにより引き起こされた事故の損害(自動車の保有者が運行供用者責任を負わない場合)について、どのように考えるか。 |
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論点3:自動運転システム利用中の自損事故について、自賠法の保護の対象(「他人」)をどのように考えるか。 |
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論点4:「自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと」について、どのように考えるか。 |
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論点5:地図情報やインフラ情報等の外部データの誤謬、通信遮断等により事故が発生した場合、自動車の「構造上の欠陥又は機能の障害」があるといえるか。 |
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今後の予定としては、本報告書の検討結果に加え、さらに安全基準の在り方や交通ルール等の在り方に関する検討結果も含む、高度自動運転システム実現に向けた政府全体の制度整備に係る方針である「制度整備大綱」が策定・公表される予定である。なお、「過渡期」を過ぎたレベル5の自動運転車が普及する段階の法制度に関しては、本報告書の射程外であり、レベル5の段階の法制度に関しては、別途検討されることとなろう。
以 上