SH4457 中国:「会社法」改正案の第二回パブコメ版(下) 川合正倫/万鈞剣(2023/05/26)

組織法務経営・コーポレートガバナンス

中国:「会社法」改正案の第二回パブコメ版(下)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 川 合 正 倫

弁護士 万   鈞 剣

(承前)

3 出資義務に対する規制強化

 2013年の会社法改正により、会社の新規設立にあたって、株主は登録資本金の分割払込を選択することができるようになった。登録資本金の引受けに応じた株主は出資未了分についても議決権を有すると考えられているが、利益配当については原則として払込済みの比率に従い受け取ることとされている。2013年の出資規制の緩和に伴い、実務上、払込期間を数年と設定する場合も多く、資金需要に応じた新規事業の立ち上げ等に活用されている。他方で、払込期限が到来していないことによって一部の資本金が払い込まれていない会社が債務を弁済できない場合に、債権者を保護する観点から、資本金の払込期限に関する期限の利益の喪失を認めるべきか、また、期限どおりの払込みを行っていない場合の権利喪失及び持分譲渡の取扱い等について議論がなされていた。これらの問題については、これまでも司法解釈等において一定の規定が設けられていたが、第二回改正案は以下のとおり、株主の出資義務に対する規制を強化する方向で手当がなされている。

⑴ 出資義務の期限の利益喪失

 最高人民法院が2019年に公表した「全国裁判所民商事審判作業会議紀要」(以下、「九民紀要」という。)では、株主の出資義務の期限利益の喪失について限定的に適用する考えを示していた。これに対して、第二回改正案は、適用条件を緩和している。すなわち、会社が期限到来した債務を弁済できない場合、会社及び債権者は、会社への出資を引き受けたものの払込期限が到来していない株主に対して、期限を繰り上げて払込みを実施するよう請求することができるとしている(53条)。条文上は、会社による債務の不履行のみが要件とされていることから、出資義務の期限の利益喪失が広く認められると考えられ、株主の立場からは、出資引受額を慎重に検討する必要が生じることになる。

⑵ 払込未了持分の失権

 株主が出資期限に従った払込みを行わない場合について、現行会社法では、債権者から未払込部分の支払請求を受ける可能性があるものの、出資持分の権利を失うことまでの効果は定められていない。この点、第二回改正案では、第一回改正案の考えを踏襲し、まず会社より株主に対し60日以上の払込みの猶予期間を付与し、払込みを催促することとし、それにもかかわらずなお払込みが行われない場合、当該株主が未払込部分の出資持分を失うとされている(51条2項)。なお、当該喪失の出資持分について、第一回改正案が6ヶ月以内の該当持分の第三者への譲渡又は減資を行ったうえでの登録抹消を定めているのに対し、第二回改正案は、権利喪失後におけるかかる出資持分の譲渡又は減資及び登録抹消に加え、6ヶ月以内に当該譲渡又は減資のいずれも行われない場合、他の株主に出資割合に従い当該払込未了部分の資本金を払い込む義務が課されている(51条2項、3項)点に留意が必要である。

⑶ 払込未了持分の持分譲渡

 出資義務の全部又は一部を履行していない出資持分を譲渡する場合、現行の司法解釈においては、譲受人が当該払込未了を知っていた場合又は知り得た場合、払込未了の資本金の出資義務について、当該譲受人がもとの株主と連帯して責任を負うと定められており、実務上も譲渡人と譲受人の連帯責任が認められた事例も存在する(会社法司法解釈三の18条1項)。また、九民紀要の考えに基づき、当該「出資義務の全部又は一部を履行していない」ことに関しては、基本的に期限どおりの履行がなされていないことを指しているとする見解が多いことから、譲渡時点において払込期限が到来していない場合、譲渡人である元株主は、持分譲渡後以降に払込みの義務を負うことまでは一般的に想定されない。この点、第二回改正案では、譲受人が払込未了を知っていたか又は知り得たかを問わず、また払込期限到来の有無を問わず、払込未了の持分を譲渡する場合、譲受人が当該払込みの責任を負い、譲受人が期限通りの払込みを行わない場合、譲渡人が未払込の部分につき補充責任を負うとされている(88条)。この場合、株主が払込期限未到来の持分を含む保有持分を譲渡し、完全に撤退するようなケースにおいても、当該持分譲渡の譲受人による将来の払込義務の不履行によって、譲渡人も債権者から責任を追及されることがあり得るため、持分譲渡により中国事業から撤退をするケースにおいては大きな影響があるものと考えられる。

 

総括

 第二回改正案の意見募集は2023年1月31日に終了した。また、第一回修正案からの変更点は上記説明に限らず、それ以外にも多岐にわたり、引き続き改正内容についての議論が行われることになる。第三回の意見募集の有無等を含め、草案の審議及び成立について明確な目処が立っていないが、外資企業の事業経営にとって留意すべき改正が多く含まれていることから、今後の立法動向が注目される。

以 上

 

(かわい・まさのり)

長島・大野・常松法律事務所上海オフィス一般代表。2011年中国上海に赴任し、2012年から2014年9月まで中倫律師事務所上海オフィスに勤務。上海赴任前は、主にM&A、株主総会等のコーポレート業務に従事。上海においては、分野を問わず日系企業に関連する法律業務を広く取り扱っている。クライアントが真に求めているアドバイスを提供することが信条。

 

(Junjian・Wan)

2011年から2015年まで中倫律師事務所北京オフィスに勤務、2015年に長島・大野・常松法律事務所に入所。日系企業による中国市場の進出及びM&A、合弁提携その他事業経営の全般に関する法務サポートに従事し、また、中国企業による日本市場への参入等に関する法務サポートも提供。山東大学法学部、早稲田大学法学研究科卒業。

 

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

長島・大野・常松法律事務所は、500名を超える弁護士が所属する日本有数の総合法律事務所です。企業法務におけるあらゆる分野のリーガルサービスをワンストップで提供し、国内案件及び国際案件の双方に豊富な経験と実績を有しています。

当事務所は、東京、ニューヨーク、シンガポール、バンコク、ホーチミン、ハノイ、ジャカルタ及び上海に拠点を構えています。また、東京オフィス内には、日本企業によるアジア地域への進出や業務展開を支援する「アジアプラクティスグループ(APG)」及び「中国プラクティスグループ(CPG)」が組織されています。当事務所は、国内外の拠点で執務する弁護士が緊密な連携を図り、更に現地の有力な法律事務所との提携及び協力関係も活かして、特定の国・地域に限定されない総合的なリーガルサービスを提供しています。

詳しくは、こちらをご覧ください。

タイトルとURLをコピーしました