SH4716 総務省、プラットフォームサービスに関する研究会「利用者情報の取扱いに関するモニタリング結果」を公表 田浦一/中村美子(2023/12/01)

取引法務個人情報保護法

総務省、プラットフォームサービスに関する研究会「利用者情報の取扱いに関するモニタリング結果」を公表

アンダーソン・毛利・友常法律事務所*

弁護士 田 浦   一

弁護士 中 村 美 子

 

1 はじめに

 2023年11月8日、総務省は、プラットフォームサービスに関する研究会による「利用者情報の取扱いに関するモニタリング結果」[1](以下「本モニタリング結果」という。)を公表した。

 プラットフォームサービスに関する研究会は、プラットフォーム事業者の利用者情報の適切な取扱いの確保の在り方等について検討するために、平成30年10月12日の報道発表[2]以降定期的に開催されている。本モニタリング結果は、同研究会において、今年度において行われた利用者情報の取扱いに関するモニタリング(以下「本モニタリング」という。)の結果を取りまとめたものである。

 なお、本モニタリングは、「デジタル広告市場の競争評価 最終報告」[3]において、経済産業省による「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」(以下「透明化法」という。)にかかるモニタリングと連携することとされている。そのため、まずは透明化法の規律対象事業者であるGoogle LLC(以下「Google社」という。)、Meta Platforms, Inc.(以下「Meta社」という。)、ヤフー株式会社[4](以下「ヤフー社」という。)に対して、デジタル広告分野における利用者情報(パーソナルデータ)の取扱いの観点からモニタリングが実施された。

 本モニタリング結果は上記3社に対するモニタリングの結果を公表するものとなっている。

 

2 本モニタリング結果の概要

⑴ 本モニタリングにおける確認事項

 本モニタリングでは、以下の4つの項目につき、本モニタリング対象3社に対してモニタリングが行われた。

 

確認項目1.  取得する情報の内容、取得・使用の条件の開示
確認項目2.  ターゲティング広告を実施する旨及び事前の設定の機会やオプトアウト機会の提供についての開示
確認項目3.  消費者がデータの取得・利用を拒否した場合の、サービスを利用するオプション提供の可否の開示
確認項目4.  データ・ポータビリティの可否・方法の開示

 

⑵ 確認項目毎のモニタリング結果

 本モニタリング結果では、上記確認項目毎に、事業者の説明の概要およびモニタリング結果が整理されている。以下に主要な点を紹介する。

 

  1. ➢ 確認項目1(取得する情報の内容、取得・使用の条件の開示)について
〈事業者の説明の概要〉

  • プライバシーポリシーを策定。独自のコンテンツ・ツールにより利用者にわかりやすくするための工夫を実施
  • 自動的に利用者情報が取得される場合がある
  • 第三者から利用者情報の提供を受ける場合がある
〈モニタリング結果〉

  • アカウントを取得している利用者に対しわかりやすく説明する工夫がなされている点は評価できる
  • アカウントを取得していない利用者やログインしていない利用者からも利用者情報が取得・利用されている場合があるにもかかわらず、わかりやすく説明されているとはいえず、説明方法について改善の余地がある
  • プライバシーポリシーの個別の記載事項の中に一般の利用者にわかりにくい記載があり、改善の余地がある
  • 第三者から利用者情報の提供を受けている場合や第三者のウェブサイトを通じて利用者情報を取得しているものにつき、利用者への説明の在り方につき今後更なる検討を要する

 

  1. ➢ 確認項目2(ターゲティング広告を実施する旨及び事前の設定の機会やオプトアウト機会の提供についての開示)について
〈事業者の説明の概要〉

  • 利用者情報を活用し広告配信を実施。広告表示にあたり利用される情報をユーザがコントロールできる(個別の外部企業へのデータ提供についてのオプトアウト、ダッシュボードを通じた広告表示等の設定等)
〈モニタリング結果〉

  • 広告設定に関するツールがアカウントを取得した利用者に提供され、利用者自身による設定を行うことができる点は評価
  • アカウントを取得していない利用者やログインしていない利用者は広告の表示に関する設定ができないか、限られた範囲内でしか設定ができない点につき、今後更なる検討を要する
  • 利用者情報の取扱いの設定・コントロールにつき、説明方法や設定支援などの工夫の余地がある
  • オプトアウト等の設定画面への導線がわかりにくく、周知等今後更なる検討を要する

 

  1. ➢ 確認項目3(消費者がデータの取得・利用を拒否した場合の、サービスを利用するオプション提供の可否の開示)について
〈事業者の説明の概要〉

  • 各社、オプトアウトした場合にもサービスの継続利用は可能
〈モニタリング結果〉

  • 利用者情報を広告表示に用いない設定をした場合、広告以外の方法に利用されないか、削除されるかといった点は確認が必要であり、今後更なる検討を要する

 

  1. ➢ 確認項目4(データ・ポータビリティの可否・方法の開示)について
〈事業者の説明の概要〉

  • ヤフー社:サービス利用履歴、位置情報・アクセス情報履歴のダウンロードが可能
  • Google社:データを複数のフォーマットでダウンロード可能。一部の他者サービスへのデータの直接転送が可能
  • Meta社:アプリで共有したデータの閲覧、ダウンロードが可能。一部の他者サービスへのデータの直接転送が可能
〈モニタリング結果〉

  • 利用者から取得したデータを基に事業者が生成したデータについては利用者がダウンロードできない点につき、改善の余地があり、今後更なる検討を要する

 

⑶ 今後のモニタリングに向けて

 本モニタリング結果では、総務省による今後のモニタリングについて、「電気通信事業における個人情報等の保護に関するガイドライン」[5]第52条第2項等に基づき、今後デジタル広告分野に限らず、利用者情報の取扱いにつき継続的にモニタリングを行うべきであること、そのために総務省において安定的な枠組みを作ることや事業者からの情報提供が十分に得られるための工夫・制度的な対応を検討すること等が提言されている。

 

3 本モニタリング結果を踏まえて

 本モニタリング結果では、Google社、Meta社およびヤフー社という、大量の利用者情報を取得し取り扱う広告デジタルプラットフォームの運営事業者3社について、各社における利用者情報の取得・利用に関する取り組み、および、これに対する総務省の評価が示されており、他の広告デジタルプラットフォーム事業者のほか、利用者情報を取得し取り扱うプラットフォーム事業者一般において広く参考になるものと思われる。

 特に、本モニタリング結果においては、①サービスのアカウントを取得していない利用者やログインしていない利用者に対する、取得する情報に関する開示やターゲティング広告・オプトアウト機会の提供に関する開示、②第三者を通じて情報を取得していることに関する説明の在り方につき、今後更なる検討を要することが示されている。これらの点については、プラットフォーム事業者においても本モニタリング結果を踏まえて積極的に対応を検討していくことが、利用者保護に配慮したサービス提供を行うという観点から有益であると考えられる。なお、本モニタリング結果においては、構成員等からの主な意見も参考資料として添付されており、より詳細な検討にあたり参考になるものと思われる。

以 上

 


[1] https://www.soumu.go.jp/main_content/000910977.pdf

[2] https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban18_01000050.html

[3] https://www.kantei.go.jp/jp/singi/digitalmarket/kyosokaigi/dai5/siryou3s.pdf

[4] 2023年10月1日より、LINEヤフー株式会社

[5] https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/d_syohi/telecom_perinfo_guideline_intro.html

 

(たうら・はじめ)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所アソシエイト。2008年北海道大学法学部卒業。2010年北海道大学法科大学院卒業。2011年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)。2019年New York University School of Law(LLM)修了。2020年ニューヨーク州弁護士登録。データプライバシー法務の他、IT・インターネット関連の案件について広くアドバイスをしている。また、会社法・M&A関連の案件を多数取り扱う。

 

(なかむら・よしこ)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所アソシエイト。2015年中央大学法学部卒業。2017年東京大学法科大学院卒業。2018年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。税務関連の案件について広くアドバイスをするほか、データプライバシー法務、M&A、訴訟・紛争その他の企業法務全般を取り扱っている。

 

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/

<事務所概要>
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業は、日本における本格的国際法律事務所の草分け的存在からスタートして現在に至る、総合法律事務所である。コーポレート・M&A、ファイナンス、キャピタル・マーケッツ、知的財産、労働、紛争解決、事業再生等、企業活動に関連するあらゆる分野に関して、豊富な実績を有する数多くの専門家を擁している。国内では東京、大阪、名古屋に拠点を有し、海外では北京、上海、香港、シンガポール、ホーチミン、バンコク、ジャカルタ等のアジア諸国に拠点を有する。

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* 「アンダーソン・毛利・友常法律事務所」は、アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業および弁護士法人アンダーソン・毛利・友常法律事務所を含むグループの総称として使用

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